幼い容貌のマシンナリーレディが近寄って来るとこちらの非戦闘員たちが露骨にビクリと反応した。
戦闘員たちも油断なくアサルトライフルを構える。
こちらに向って撃って来た時、すぐに撃ち返せるように。
そのマシンナリーレディはエイミーと同じくらいの年頃の幼い容貌であった。
灰色の髪を肩まで垂らし、その肩からは細い銃身のエネルギー・キャノンが覗いている。
「いよう。あんたはこっちにそのエネルギー・キャノンを撃って来たりはしないよな?」
こちらのリーダーのブラッドが多少引き攣った笑みを浮かべてマシンナリーレディに声をかける。
無表情にマシンナリーレディは頷いた。
「僕の名前はラリサ・アンダーソン。僕は他のマシンナリーレディと違って人類を裏切って殺戮機械たちの味方をする気はない。安心して欲しい。……と言っても難しいだろうけど」
「そうだな。俺たちは四人のマシンナリーレディに裏切られた挙句、多くの仲間を失っているんだ。ガキどもはマシンナリーレディってだけでビクビクするし、堪らねえよ」
「すまない。僕のせいではないが、同じマシンナリーレディがやらかした事。申し訳なかった」
とりあえあずこのラリサというマシンナリーレディは信用出来そうだった。
俺とテレーシアはお互いに頷く。
「そっちのレジスタンスと合流したい。そっちで残ったマシンナリーレディは君一人か?」
「そうだ。僕一人だけが狂気に陥る事なく、人類軍に残った。すぐそばに僕たちの仲間もいる。案内する」
「お願いするわね」
俺とテレーシアがそう言い、ブラッドも頷き、ラリサの先導で森の中を抜けていく。
とりあえずこのマシンナリーレディは自分のレジスタンスの拠点を攻撃しなかったようだ。
今も飛行型殺戮機械を撃ち落してくれた。一応、信用は出来そうだ。
「貴方は神霊憑依者の甘粕光輝か」
「俺の事を知っているのか?」
「有名だからな。銃ではなく剣を持って殺戮機械に対抗しようとする人間もそう多くはない」
「そりゃそうだろうな」
普通の人間なら剣で殺戮機械に挑むなど自殺行為だ。
神の力を憑依させられる俺だからこそ出来る芸当だ。
そう多くないどころか、俺一人ではなかろうか。
「神霊憑依者も殺戮機械たちに寝返ったとの噂があったが、デマだったようだな。安心した」
「そんな噂が?」
まぁ、無理もないか。
神霊憑依者はマシンナリーレディ同様、出所不明の人類の救世主だ。
そのマシンナリーレディが人類に牙を剥いた以上、神霊憑依者も疑われるのは無理もない。
「そちらのマシンナリーレディも殺戮機械には付かなかったようだな」
「私や貴方はバグのおかげで異星の者たちが思ったように狂気には囚われなかったようですね。ありがたい事です」
「全くだ。僕たちが人類を殺すなんて事、想像だに恐ろしい」
人類に残ったマシンナリーレディ二人は早くも意気投合している様子であった。
大半のマシンナリーレディが殺戮機械たちの側に付いてしまったとなればその気持ちも分かるというものだ。
そんな二人と共に美夏、ミロス、エイミー、ティエクラの四人も混ざり、六人で仲良く話している姿を幻視した。
本来ならマシンナリーレディ同士、そうした光景も有り得た事だった。
それが何でこんな事に、との思いが今更ながら湧き上がって来る。
ラリサのいたレジスタンスの拠点に辿り着いた。
ミロスの大型エネルギー・キャノンの直撃を喰らって倒壊したこちらの拠点と違い被害は少ないようであった。
とはいえ、離反したマシンナリーレディのせいでここの場所も割れているらしくすぐに移動して拠点を移すつもりのようだ。
「ここのマシンナリーレディも離反したんだろ? よく無事だったな」
「僕が一番強かったから。ここのマシンナリーレディでは」
しれっとラリサがそう言う。
なるほど。この拠点はこちらの拠点よりは幸運だったと言う事か。
死傷者の数も見るからに少なく、まだレジスタンスとしての機能を残している様子が見受けられた。
「こっちは四人全員が離反だからな。ロシア女のエネルギー・キャノンで撃たれるわ、チビのガトリング・ガンで弾巻き散らされるわ、散々だったぜ」
ブラッドが少し羨ましそうにラリサの拠点を見て言う。
「まぁ、ブラッドさん。テレーシアが助けに来てくれただけでも幸運でしょう」
「それもそうなんだがな。光輝でもやっぱり四人相手はきつかったか?」
「流石にきついですね」
能力的にも、心情的にも。
あの四人と戦うのはなるべくしたくはない。
でも、戦わないといけないのだろうな。
俺がこの先も地球人類を守る限り、あの四人は地球人類を抹殺するべくやって来るだろう。
その時に俺は戦えるのか? 特に幼馴染みの美夏と……。
今更ながら自分が全然、心の中で区切りを付けれていない事に気付くがそれは表に出さなかった。
ブラッドがここのレジスタンスのリーダーと挨拶をし、共に移動計画を話し合うようだ。
こうなれば俺たちの仕事は護衛をする事だ。
俺たちは良くも悪くも戦う事しか能がない。
生き残った人類を纏め上げて、導く事など出来ない。そういった事が出来る人がいなければ人類はとっくに滅んでいただろう。
カリスマ、というヤツか。
そういった人々が人類を纏め上げていなければ日々の食糧を巡って揉め事、を超えて人類同士で殺し合いが起きていてもおかしくはない。
そうならないように気を配れるのも才能だ。
「甘粕さん」
「光輝でいいよ。その代わり、俺もラリサって呼ばせてもらう」
「分かった。……光輝は裏切ったマシンナリーレディと仲が良かった?」
ドキリと胸を刺すような問い掛けだった。
その事について考えていた所だ。仲間だった、戦友だった者たち、幼馴染み。
「……ああ、良かったよ」
「そう。僕もそうだよ」
「そうか。お前も辛い戦いだったんだな」
ここのマシンナリーレディではラリサが一番強いと聞いた。
それでもそれまで共に戦ったマシンナリーレディを撃退するのに思う事がない訳はないだろう。
「どうしてこんな事になってしまったんでしょうね」
テレーシアが会話に入って来てため息を吐く。
全くだ。
あの四人と過ごした日々は今でも色鮮やかに思い出す事が出来る。
それは戦場で異星の殺戮機械と戦っている時だけの記憶じゃない。
このような世の中でも日常はあり、儚いながらも楽しい時間は確かにあった。
しかし、それらの全ては裏切られた。
あの四人は地球人類に敵対し、殺戮兵器たちの側へと寝返った。
次に会う時は敵同士。それは間違いないだろう。
「そもそもマシンナリーレディってのは何だったんだ」
俺は思わず口に出す。
出所不明の技術を用いて少女たちを機械と融合させ絶大な戦闘力を持たせた存在。
その程度しか認識していなかった。
今となってはそれも悔やまれるのだが、殺戮機械たちに立ち向かえる存在が作れるのならその技術に頼るしかなかった。
機械と融合させられた少女たちの人権も無視でマシンナリーレディは世界各地で作られ、人類を守る希望となる。はずだった。
しかし、それは異星の者たちが仕組んだ悪辣なる罠。
地球人類への反逆をプログラムされていたのであろうマシンナリーレディたちは地球人類に牙を剥き、世界規模で被害が出た。
バグで地球人類への反逆を行わなかったテレーシアやラリサのような例外も存在するようではあるが。
ともあれ、この場所は殺戮機械たちには知れている。
さっさと移動して別の場所に拠点を設立しなおすのが一番だろう。
プレハブ小屋やテントからなるレジスタンスの拠点は移動出来るように出来ているものなのだ。
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