【完結】反逆のマシンナリーレディ

地球文明崩壊。救世主と思われた存在は地球人類に牙を剥いた
和美 一
和美 一

第一章:反逆のその刻まで

第1話:異星の侵攻と立ち向かう者たち

公開日時: 2021年6月4日(金) 21:06
文字数:3,421


 これまで自分たちが守って来た、そして、共に戦ってきたレジスタンスの拠点は炎上・壊滅し、それを成した張本人の四人の少女たちが笑みを浮かべている。


 大量の人を抹殺したというのに彼女らはそれを気にも止めず、むしろ、喜んでさえいた。


 どうして、こんな事をしたのか。

 俺は戦友と呼べる者たちに、自らの幼馴染みに問い質したい気持ちでいっぱいだった。


「どうして、こんな事を……」


 そうして、見るマシンナリーレディと呼ばれる人類の希望、だったはずの者たちを。

 彼女らは俺の事を冷たい目で見下し、クスクス、と笑う。


「お、お前たち……どうして……!?」

「まだ理解が及ばないんだ。お兄ちゃん……いや、甘粕光輝……」

「甘すぎるにも程がありますわね」

「目を覚まさせてやろう」

「甘粕光輝は、ここで殺す」



 廃墟となった町には独特の雰囲気が漂う。


 かつて栄華を誇っていた人類社会の象徴は無残にも崩れ落ち、野ざらしの姿を晒している。

 もはや利用する者は誰もおらず、人に利用される前提で作られたビル群の内装がただただ虚しい。


 今となっては壁を戦闘の際の防御壁に用いられるだけの存在と成り果てたビル群。

 そんなビル群が無数に建ち並び、いずれかは途中で倒壊し、無残な姿と成り果てている。


 訪れる者はいない。こんな目立つ場所に来れば奴らの的となり蜂の巣にされて命を無駄に投げ捨てるだけだ。いくら滅ぼされようとも人類はそこまで愚かではない。


 崩れ落ちたビル群。住む者もいなくなりすさんでいくだけの家屋。不要となった電柱、信号機。


 それらの調和がもたらす虚しさを感じながら、俺、甘粕光輝は廃墟の街並みを歩いていた。


 普通なら、まず有り得ない。先も言ったが、こんな目立つ所を歩くのは命をどぶに捨てるに等しい行為だ。

 普通の人間であったなら、だが。


「光輝、レーダーに反応があった。そろそろ奴らが来るよ」


 そう言って、年端もいかない少女が俺に声をかける。

 年の頃は高校生といった所。アジア系人種特有の黒い髪を長く伸ばし、実用性最重視の丈夫な軍服の上に両肩にミサイルランチャーを装備し、両腕にはエネルギー・ガンを持っている。


 これが人類の希望、マシンナリーレディ。機械と融合した肉体を持ち、奴らに対抗出来る例外を除けば唯一の種族。


「ああ、分かった。美夏」


 その少女の名は春沢美夏。

 俺の幼馴染みとしてあの『審判の日』までは共に学校に通い、平和を満喫していた存在だ。

 だが、そんな当たり前だと思っていた平穏は崩れ去った。あの『審判の日』に。


「光輝、来ますわよ」


 新たな少女が顔を見せる。

 金色の髪を伸ばし、美夏同様の軍服を身に纏ったマシンナリーレディだ。


 美夏との違いは両肩に装備しているのがミサイルランチャーではなく大口径のエネルギー・キャノンであるという点。

 両腕にマイクロ・ミサイルランチャーをその分装備している。


 この少女はミロスラーヴァ・エウリアン。

 『審判の日』なんて事が起こらなければまず俺たちと交流を持つ機会などなかったであろうロシア系の少女だ。


 そして、奴らはやって来た。


 武骨な飛行機械の大群が襲来する。

 どの機体も機体中央にビーム・マシンガンを装備している。


 普通の人間にはその機動力で追いつき、光弾の連射で蜂の巣にする。


 こいつらはそうやって地球の人口をごっそり奪い取った。


 俺と美夏、ミロスは近場の廃墟のビルの中に入り、その壁を防御壁として様子を伺った。


「いつもと大して変わらない面子ですわね」


 ミロスの言った通りだった。奴らの地球人類殲滅の集団。『定期便』と揶揄されるその一団と今回も違いはないように見えた。


「なら、倒すまでだね」


 美夏がそう言うと背中のスラスターからバーニアを噴き、ビルから飛び出る。そのまま両肩のミサイルランチャーを纏めて発射し、飛行機械たちに攻撃を仕掛ける。

 殺到するミサイルに飛行機械の一団は回避行動を取る事も出来ず直撃を受けた。そして、空中で爆砕する。


「美夏に負けてはおれませんわね」


 ミロスもそう言って背中のスラスターを噴かし、飛び出て行く。両腕のマイクロ・ミサイルランチャーを放ちマイクロ・ミサイルを飛行機械たちに浴びせる。


 これがマシンナリーレディの力。異星から訪れた殺戮機械たちに追い詰められた人間が生み出した最後の希望。


 マシンナリーレディは異星の殺戮機械とも互角以上の戦いを展開する事が出来る。

 そして、マシンナリーレディでもない俺が何故、この最前線にいるのか。

 マシンナリーレディの足を引っ張るだけだと思うかもしれない。だが。


 俺は腰のベルトに吊り下げた鞘から刀を引き抜く。この荒廃した世界では調達するのも苦労する一級品の日本刀だ。


 無謀と思うかもしれない。ビームの機関銃を装備し、空を駆ける殺戮機械相手に刀で立ち向かうなんて。しかし。


「ポゼッション」


 俺は呟く。

 その言葉に合わせて神霊が俺に憑依する。

 そして、絶対なる力を俺に与えてくれる。


 俺もビルから出て、地を蹴る。その速度は自動車を凌駕し、一気に加速した体が宙に浮きあがり、空中の殺戮機械に刀を突き立てる。


  鋼の刀身は殺戮機械の体を斬り裂き、空中で殺戮機械が爆散する。

 そのまま俺は他の殺戮機械からの機銃斉射を受けたが、それらを全身に纏ったオーラで弾き、殺戮機械たちに刀を突き立てていく。


 美夏は両腕のエネルギー・ガンを連射し、殺戮機械を落としていく。

 ミロスも両肩のエネルギー・キャノンを放つ。高出力のエネルギー・キャノンが放たれ、殺戮機械たちの一郡が一瞬で光に飲み込まれて、消えた。


 俺も刀を殺戮機械に突き立てて倒していく。

 美夏やミロスたちマシンナリーレディと神霊憑依者の俺。

 それが異星からの殺戮機械に滅びの危機に直面した人類に神が与えた希望であった。


 そう、これは神が与えしもの。

 マシンナリーレディにしたってどういう経路で開発されたのか、誰が生み出したのかまるで分っていないのだ。

 俺の神霊憑依者に至っては世界で俺一人しか今の所、確認されていない。


 まさに神が与えた人類の希望と言えるであろう。


「今回の『定期便』は数が少なかったな」


 全ての殺戮機械を撃墜し、俺と美夏とミロスは廃墟の道路の真ん中に集まり、言葉を交わす。


「多ければ多いで私のエネルギー・キャノンで蹴散らすまでですけどね」

「ミロスのエネルギー・キャノンは小型の殺戮機械より大型の敵を相手にした方が本領を発揮出来るんだよね。私には大型の機械を相手にするのは少し厳しいかな」


 今回は小型の飛行型殺戮機械しかいなかったが、爆弾を満載した大型の殺戮機械が『定期便』に混ざっている事もある。

 その場合、撃破するのに少し骨が折れるが、出来ない訳ではない。


 そして、俺たちがわざわざこんな目立つ場所で『定期便』の相手を引き受けているのには理由がある。


『こちら食料調達班だ。目的は達成した』


 腰の無線機に連絡が入る。

 食料調達班は普通の人間で構成されている。

 無論の事、殺戮機械の相手をするなんて不可能なので俺たちが陽動の役目を担ったという訳だ。


「了解。こちらも帰還する」


 俺は無線機にそう応えると、ポゼッションを解いた。

 傍目には分かりにくいが纏っていた神々しい、とでも表現するのか独特の雰囲気は消えるらしい。


 中肉中背、体躯もそこまで立派なものでもない俺は傍目には完全武装の少女二人に守ってもらっているように見える。気にはしないが。


 そうして、レンジスタンスのキャンプに戻る。このキャンプの場所はまだ殺戮機械には割れてはいないはずだ。


「あ、お兄ちゃんたち戻ってきた!」


 マシンナリーレディの幼い少女、エイミー・カーターが喜色満面に俺たちを出迎えてくれる。


「……おかえり」


 それとは対照的に静かに俺たちを迎えるのはやはりマシンナリーレディの少女、ティエクラ・マクローニンだ。


「ああ、ただいま」


 俺に続き、美夏とミロスも帰還の挨拶をする。俺たちが外に出ている間、レジスタンスのキャンプを守ってもらっていたのだ。


 異星から襲来した殺戮機械たちは地球文明を崩壊させたが、まだこのように各地には地球人が生き残っている。

 マシンナリーレディや俺の神霊憑依者という希望もある。


 まだ絶望するには早い。

 それはこのレジスタンスのキャンプのメンバーの総意であった。


 俺もそうだと思う。

 異星からの殺戮機械たちは際限なく湧いて来て人類を殺傷するが、抵抗出来ない訳ではない。

 ならば抗えるだけ抗うまでだ。


 俺は覚悟を再確認すると食料を調達して来た食料調達班に労いの言葉をかけるのであった。


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