ピュアとテレーシアとラリサの模擬戦か。
といってもどこまで意味があるのかは少し疑問だ。
まずテレーシアとラリサは銃火器は使わない。
それぞれ接近戦用の装備であるレーザー・ランスとレーザー・ナイフだけで戦う。
それなら全力を出せるピュアの方が圧倒的に有利なのではないか。
(まぁ、ピュアにしてもテレーシアにしてもラリサにしても経験を積むくらいにはなるか)
そう思う事にした。
実際、テレーシアとラリサが接近戦用の武器で戦う状況など前衛を張る俺とピュアが突破された時などあまり想定したくはない状況なのだが、いざという時に備えて接近戦の腕前を磨いておく分には悪くはないかもしれない。
ピュアにしてみればいつも通りの模擬戦だ。
テレーシアとラリサは接近戦用の武器を持ち、ピュアと戦う。無論、一対一で、だが。
「それじゃあ、僕が最初にピュアの相手をする」
ラリサが先に前に出てレーザー・ナイフ二本を取り出すと両手に構える。
ピュアは緊張した様子で剣を構える。
「よろしくお願いします! ラリサさん!」
「お手柔らかに、ね。接近戦の経験は君の方が多いんだ。こちらも学ばせてもらうつもりでいくよ」
「そ、そんな、わたしなんてまだまだです!」
そう言いつつ、試合の幕が開く。
ラリサは地を蹴り、ピュアに直進。
ラリサのレーザー・ナイフはナイフと付いているだけあり、射程が短い。ピュアのふところに飛び込む必要がある。
勿論、ピュアはそうはさせぬと剣を振るう。
振るわれた剣をラリサは二本のナイフをクロスさせて受け止める。
そして、ピュアは剣を引き、再度斬りかかる。
今度はラリサは右に飛んで避けた。
そこから回り込み右手のナイフの一本で突きを繰り出す。
慌ててピュアは剣を引き戻し、刀身でそれを受け止める。
次いで、ラリサの左手のナイフが振るわれる。これもピュアはなんとか受け止めた。
ラリサがナイフを二本とも引いた隙を狙ってピュアが斬りかかるが、ラリサは後ろにジャンプしてこれも回避する。
(ふむ……)
接近戦ならピュアの方が慣れているはずだが、実戦経験の差が表れている、と俺は思った。
ラリサはレーザー・ナイフという武器の特性を最大限使い、ピュアを翻弄している。
ピュアは長剣の利を活かせないでラリサに翻弄されている格好だ。まだまだ甘いな。そんな感想を抱く。
軽いナイフで素早く繰り出される攻撃に一太刀が大振りになりがちなピュアでは今一つ反応し切れていない。
そのあたり、流石にラリサの歴戦の経験がある。
ピュアの欠点を素早く見抜き、そこを突き、攻撃している。
普通ならナイフで剣とやり合うには相応の力量が必要なはずだが、それだけの力量差があるという事だ。
意外と新しい発見に繋がっているかもしれないな、この戦いも。そう思いながら俺は二人の戦いを見守る。
「や、やりますね! ラリサさん!」
「そちらもなかなか。でも、手加減はしないよ」
「勿論です!」
ピュアは近付き過ぎず離れ過ぎずの距離を保つラリサに対し、自ら踏み込んで行き、剣を振るう。
これをラリサはナイフで受け流す。レーザー・ナイフといえど、あの長剣をまともに受けては堪らない。
ピュアの剣の勢いを受け流す要領で攻撃を凌ぐ。
それが出来るラリサというマシンナリーレディも大したものだと言わざるを得ない。
(普段は後方から射撃ばっかりやっているってのに)
そんな事を思ってしまう。
彼女の四連装エネルギー・キャノンの火力にはこれまで何度も助けられてきた。
強化改造で威力が増してからというものの特に、だ。
それがここまで接近戦もこなせるとは。仲間の実力を新しく発見し、俺は感心していた。
「ラリサ、やりますね」
同じ事を思ったのか俺同様、観戦していたテレーシアが俺に声をかけて来る。
「ああ。接近戦でもあれだけ立ち回れるとはな。あれならいざって時も安心だ」
「私にはあそこまで接近戦をやるのは無理です……」
「いや、テレーシアもそこそこはいけるんじゃないか?」
獲物の質で言えばラリサのレーザー・ナイフよりテレーシアのレーザー・ランスの方が上質だろう。
それを使えば充分接近戦も戦える気がする。
視界をピュアとラリサに戻す。
ピュアの斬撃をラリサはナイフで巧みに捌き、反撃を繰り出し、ピュアは慌ててガードする。
そんな事を繰り返していた。
やがてピュアの剣の刀身の上をラリサのナイフが滑り、ピュアの喉元にナイフを突き付ける。
勝負あった。ラリサの勝ちだ。
「ラリサの勝ちだ。ピュア。まだまだだな」
「面目ないです~」
「まぁ、僕にとってもいい鍛錬になった」
うなだれるピュア。一方のラリサは満足げだ。やはりピュアにはまだまだ経験が足りない、か。
「それじゃあ、次は私とだね、ピュアちゃん」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
ピュアはそう言い、剣を構える。
テレーシアもレーザー・ランスを取り出し、構えた。さて、今回の戦いはどうか。
「せいっ!」
テレーシアが突きを繰り出す。
それをピュアは回避し、剣で斬りかかるが、その時にはテレーシアは槍を手元に戻していて、柄で剣を受け止める。
そして、弾き返す。それでめげるピュアではない。再度、斬りかかるが、これもテレーシアは防ぐ。
「なんだよ、テレーシアの奴。あんな事言って、やるもんじゃないか」
「いくら砲撃戦主体でも最低限の接近戦は出来ないとね。僕のナイフ捌きどうだった?」
「ああ、見事なもんだった。ピュアを完封していたな」
「ま、経験の差だね」
得意げなラリサの顔を見た後、ピュアとテレーシアを見る。
テレーシアの突きはピュアの斬撃以上に大振りだ。
それをピュアは回避し反撃の斬撃を繰り出すが、これもまた防がれる。
テレーシアの槍という武器の取り回しの悪さを考えればいくらでも付け込めそうなものなのだが、ピュアがそれをやるにはまだまだ経験値の絶対値が足りていないようだ。
必死で剣を振るっているが、猪突猛進気味で、恐らく技量ではラリサに劣るテレーシアにも容易にしのがれている。
「ふむ……ピュアの剣技はまだまだ要鍛錬だな」
「そうだね。今のままだと剣だけで戦うには不足だ」
俺とラリサの感想は一致していた。
ピュアの剣とテレーシアの槍の柄がぶつかり合う。
そのままギリギリと押し合っていたが、最終的にテレーシアが落ち勝ち、ピュアは尻餅を付いた。
剣が地面に投げ出される。勝負、あり、か。
「よーし、そこまでだ。ピュア、お前はまだまだだな」
「め、面目ありません……光輝さん」
「光輝さん、そう言ってあげないで下しさい。ピュアちゃんも頑張っていましたし……」
「このまま未熟な腕前で敵、マシンナリーレディと戦って死ぬのはピュアだ。もっと鍛錬を積む必要がある」
「それは分かっています。光輝さん。わたしはまだまだ未熟です」
剣を拾い、立ち上がりながらピュアが言う。とりあえず自覚があるのはいい事だが。
これでは神霊憑依者の真の力以前の問題だ。
ピュアにはもう少し厳しく鍛錬を積んでもらう必要があるだろう。
それを発見出来たという点では今日のテレーシアとラリサとの模擬戦は有意義だったと言えるが。
俺とばかり模擬戦をしているだけでは気付けなかった事だ。
何分、神霊憑依者は俺とピュアの二人しかいないのだ。
その中で劣っている部分があるのかどうかは見抜き難い。
俺も『審判の日』までは一般の学生だった身だ。他人を指導する経験などない。
他人の資質を見抜く才能に関しては残念ながらないと言わざるを得ない。
とはいえ、二人のマシンナリーレディとの模擬戦を見て、今のピュアのままでは問題だと言う事くらいは分かる。
鍛錬もそうだが、実戦も積んでなんとか改善してもらわえねば。
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