あいつが僕を見てる。
図書館の静かな部屋の一室で、斜めに突き刺さる嫌な視線。
地図を広げてみる僕に突き刺さる、気分を害する視線。
なんだよ、お前。
軽く舌打ちして、地図を見る。
定規を北西にして何かないか見て行く。
ざっと見て大阪府、兵庫県。
細かく見ても、あんまり馴染めない地名。
それらを指で引きながら視線が地図上の日本海に出る。
ほぇー
この範囲の細かなところをコンパスが差したとなると気の遠くなるような話だ。
うーん
溜息をついた時、LINEが鳴った。
見ればイズルだった。
#やぽー
こだま
こっちは天気ばりばりいいで!!
これからトレッキングいってくるわ
写真が付いている。見れば帽子にサングラスのイズルと陽に焼けて益々黒くなるマウロの姿があった。二人とも肩を組んでこちらにピースをしている。
夏を満喫してるな、こいつら。
僕は単に「OK」と書いて返信した。
頭を後ろに組んで、目を閉じた。先程地図を見た線上に何か台風と関連するようなめぼしいものでもないか考えてみる。
「何かみつかりました?」
ぎくりとして僕は目を開ける。首を回し振り返ると男が立っている。
「あんた・・・猪熊・・」
僕は中腰になって身構える。
まぁまぁ
そんな感じで両手を前に出して、僕の気持ちをなだめる様にしてから真向かいに本を机に置いて腰かけた。
僕はじろりと猪熊の方を見る。
「この辺に住んでんの?」
「ええ、少し行ったところに区役所があるでしょう。その先にある若林パンの隣に住んでまして」
猪熊は肩肘をついて僕を見る。
「私も実はこの図書館の三階に例のやつがあったのは知っていたんですが・・広げてみても中は真っ白空白で・・読めなかったんですよ。でもこだまさん、あなたは読めたようですね?」
真っ白だって??
いや、いや、
ちゃんと書かれていただろう、鏡文字で?
「真っ白空白?だって?」
「ええ、私が見た時は空白でした。全く何も書かれていない。私どもが調べたところでは、あの魔術書は意思を持っているのか・・自ら認めた者にしか言葉を示さないそうです」
僕は猪熊がにやりと笑うのを見た。
「つまり、ミレニアムの魔術師」
僕が?
沈黙する。
僕は魔術師でもないし、
松本の弟子でもないんじゃない?
(あいつが勝手にそう認めたたらしかたないけど・・)
猪熊は本を手に取り、数ページ捲った。彼の瞳に文章が映る。
こいつ、何考えてるんだろう?
本を見る彼の視線が止まった。
「こだまさん、人類は地球を食いつぶしている。オゾン層破壊、森林伐採・・・。」
食いつぶす・・
「地球は本来の美しい姿ではない、今は眠っているのです。そんな眠れる赤子を人類が食い尽くすことは畜生以下です。そう思いませんか?」
そこで視線を上げた。
「クーラーの効きすぎる施設。食べきらず残される食糧、あまりにも過度な人工エネルギー消費と過剰ともいえる食糧調達の為に消されていく多くの動植物種、それらは地球が人類に与えている恩恵を何も考えず食い散らしているの証です。砂漠化、温暖化等が引き起こしている環境破壊を深く知れば地球という青いエデンの崩壊が足元から始まっているのを知るはずです。今、ここでそれらを食い止めないと・・この星に生きる人類も含めあらゆる種は消え去る事でしょう」
猪熊は本を閉じてじっと僕を見た。
「こだま君、ミレニアムロックを再び閉じることを考えるのはおよしなさい。もし考えを改めないのであれば『真の地球』団体があなたを全力で抑え込みにかけるでしょう」
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