目が覚めた時、僕は床に転がっていた。手元を見れば、半分まで齧ったパンが固くなって転がっている。
部屋を見回すとテレビの画面は放送がないチャンネルになっていて、一切何も音が聞こえない。
なんというか、何も音もしない不思議な静けさの中で、僕は自分に起きたとことを考えてみた。
確か・・・、
イズルとマウロの出ている番組を見たんだよな。
それから
何か変なことが起きたんだ。
それは・・・
そう
急にあいつら二人の目が大きくなって、
そして、そして、
僕を飲み込んだんだ。
その後、男の声がした・・
そう、確かに僕に言った。
しかし、
何て言ったか・・
僕は寝返りを打つ。その時、テレビの画面が急に切り替わり、ニュースを流し始めた。
僕は驚いて起き上がり、急いでテレビから流れて来たニュースを見た。
それは不思議な光景だった。
場所は中東の何処かだろうか。
砂漠の中を大量の水が流れ、大きな川となっている。それは明らかに突然の雨期でできたような川ではなく、元々そこに川があったかのような豊かな水量で流れていた。
テレビの画面の字幕が伝えて来る。
「突然・・突然、この砂漠に川が現れたんだ。遥か昔、ここは豊かな森と川だったと先祖から聞いていたんだが、今朝起きてみるとだ・・・このとおり突然大量の水が地中から湧いていて、見たこともないような巨大な川ができていたんだ」
テレビの取材を受けているアラビア人だろうか、日よけのフード下から豊かな髭を震わせている。
まるで神の軌跡を見た人のような眼差しで
アラーだよ、
きっと奇蹟を起こしてくれたんだ
そう言った。
僕は映像を見て思った。
こんなん、尋常じゃない。
忽然と現れた砂漠の中の大河なんて。
その川の水量はとても砂漠の中を流れる量ではないように見える。
申し訳ないが見ていると何かとても歪で、大きな異常破壊が起きない限り、そんな光景は在り得ない。
直感がそう言っている。
昨日の地震はそれの前触れじゃないのだろうか。
不安が頭をよぎる。
何か悪いことが地球規模で起きているのじゃないだろうか。
「こだま君、正解です」
その声に僕は驚いて飛び上がり、後ろを振り返った。
見れば男が壁に立ってテレビのリモコンを持って僕を見ている。
不審者‼
一瞬で総毛立ち、相手に向かって怒声をかけようとしたその刹那、身体がいきなりふわりと浮きあがり、僕を天井へと押し上げた。
「うわぁぁぁ、なんだ!!なんだ、これは!!」
パニックになって叫ぶ僕。
本当になんだかわからない。不審者がいるだけでも相当の驚きなのに、それを超えるかの摩訶不思議な状況。
これは何なのか‼
不審者の男が何かしたのか、身体が膨張する何かに押し上げられるように浮いていく。
手足をバタバタさせ天井へ向かって浮かんでいく僕。
そんな僕を下から眺める見知らぬ男。
やがて僕は天井付近でプカプカ浮かび始めた。
まるでプールで浮かんでいる浮き輪のような感覚だった。
驚きで声が出ない。
この状況を受け入れられない自分の意識がこれ以上慌てるのは止せと言っている。
僕はプカプカ浮かびながら、男の顔を見た。
あれ・・こいつ・・
ちょっとまてよ。
この男・・
確か昨日出かけるとき声をかけて来た・・
プカプカ浮かびながら、僕は冷静になった。
その様子を見て、男が頭を下げた。
「どぅもぉ~、こだま君。昨日は突然失礼しまして~ぇ」
この嫌な語尾の伸ばし方。
首からぶら下げた懐中時計を握りしめて、言う。
「私は松本と言います。初めまして」
僕は無言で空にプカプカ浮かびながら思った。
あんた
松本っていうんだ。
初めまして。
そして心の中で言ってやった。
それであんたが僕のこの状況をどう説明してくれるの?
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