ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

グランドホテル

公開日時: 2020年9月1日(火) 17:00
更新日時: 2020年9月1日(火) 23:46
文字数:1,291

「さてと、僕もそろそろ『グランドホテルに向かいますか」


陽光公園のベンチでは、生徒会メンバーの麻美が伸びをしていた。


「待たれよ、そこの者」


そこに、青髪の青年が声をかけた。秘宝バトルのステージに出演していた、日本海軍のような服装が特徴のヴァルカンだ。


「貴様、たみではないな」


「へぇ、キミも只者じゃあなさそうだね」


麻美は、スカートのポケットから秘宝を取り出し、後ろ手に隠した。


それがしと勝負しろ。貴様の正体、見極めてやる」


「いいよ♪」


ヴァルカンは金色の宝箱を突き出しながら言ったが、麻美はヴァルカンから数メートル距離を置いた後、急に向きを変えて走り出した。


「待て、逃げる気か!?」


「あはは、キミを倒しても何のメリットもなさそう! じゃあね、『死にたがり屋』さん!」


ヴァルカンは走って麻美を追ったが、あっという間に行方を眩ませてしまった。


「まずいな、某も陽光町の民と合流せねば……」


ヴァルカンはヘルメットを被り、青いバイクに跨って走り出した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


廃墟のビルの最上階に着くと、愛歌はイヴに質問をした。


「ここはどこですか?」


「ここは、秘宝獣研究所という施設の跡地なのです」


イヴが愛歌に見せたのは、一枚の写真だ。


その写真には、伝説上の生き物、《アルミラージ》が写っていた。


「アルミラージの角には、どんな傷でも治す能力があると言われているのです。それさえあれば、左眼を失明したまま昇華させてしまった私の秘宝獣、ダムドレオの視力も回復するはずなのです」


「生徒会長さん……」


「秘宝獣は、月、火、水、木、金、土、日という七つの属性のいずれかに昇華するのですが、日属性の秘宝獣に昇華させるには、純粋で無垢な子どもたちを使うしかなかったのです」


そのため、遊園地からここへ連れてこられたのは、小学生以下の子どもたちだった。


「目的さえ遂げれば、元の場所へ帰すつもでした。ですが、私の計画は失敗に終わったのです」


結果として、地下に連れて来られた子供たちは、誰一人として日属性の秘宝獣を昇華させることができなかったのだ。


「……誰か来たみたいなのです。鴇 愛歌、あなたはここで待っているのです」


そう言うとイヴは、隣の大広間へと向かった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


地下室から無事に避難を終えた子どもたちは、廃墟のビルの前に集合していた。


乃呑が呼んだパトカーも既に到着しており、子供の安全は確保されていた。


そこに、一台の青いバイクが到着した。


「秘宝大会の時以来だな、白銀の」


「ヴァルカン!? どうしてここに?」


「事情説明は後だ。敵将を討つ」


「敵将?」


乃呑が首を傾げると、ヴァルカンは廃墟のビルの頂上を指差した。


乃呑とヴァルカンはエレベーターに乗り込み、最上階行きのボタンを押した。


最上階に着くと、広々とした部屋に出た。その部屋の奥から、学制服を着た少女が姿を現した。


「また私の邪魔をしに来たのですか? 菜の花 乃呑」


「生徒会長……」


「油断するなよ、白銀の」


「いいでしょう。二人まとめて、掛かってくるのです」


イヴが繰り出したのは、隻眼の黒豹の秘宝獣。


モデルはおそらく、【ヨハネの黙示録】の【黒き獣】。


【Sランク秘宝獣―ダムドレオ―】


役職説明:【強欲な人狼】

欲深く非常に攻撃的な人狼。

一度だけ、夜に二人を襲撃することができる。

基本的には他の人狼と同じ行動をとるが、シンプルかつ強力なその能力のため、人狼陣営の切り札となりうる存在。

ここぞというタイミングで、二人襲撃できれば人狼陣営の勝利に大きく近づく。

あまり序盤に市民の数を減らしてしまうと、潜伏しづらくなるので注意が必要。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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