ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

あざとい少女

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:2,165


ゆうきとたくみは、ちょうど空いていた、秘宝バトル会場の後ろの方の椅子に座った。


「ヴァルカンの試合、楽しみですね!」


「ああ、対戦相手は誰だろうな!?」


すると、ステージから白い煙が噴出し、フリフリのアイドル衣装を着た少女が、ステージの中央に現れた。


「みんなー☆ 今から、【秘宝バトル】のエキシビションマッチを始めるよー☆」


たくみは「あっ!」と言って立ち上がり、嬉しそうに言った。


「ゆうくん、あの人、秘宝大会四位のアザトスさんですよ!」


「金属性の秘宝遣いか!? すげー、本物だ!」


ゆうきも席を立ち上がると、アザトスは二人に向けてウィンクをした。あざとい。


「対戦相手は秘宝大会三位! 水属性の遣い手、ブラウ・ヴァルカン選手ー☆」


再び噴出した白い煙と共に、ステージ中央に現れたのは、海軍の服装をした青い髪の青年だ。


ヴァルカンは観客に一礼し、アザトスとは反対側のステージの端へと歩いていく。


十分に距離がとれたところで、アザトスとヴァルカンは互いに向かい合った。


「秘宝大会以来だな。再び相まみえる日を、心待ちにしていたぞ」


「えへへ☆ よろしくお願いしまーす☆」


アザトスとヴァルカンはそれぞれ、ポケットから手のひらサイズの銅色の宝箱、【Cランクの秘宝】を取り出し、ふたを指先で弾き、開けた。


開宝かいほう相良丸さがらまる!」


「開宝☆ ジュエリーちゃん☆」


同時に、舞台装置が作動し、ステージの中央に堀式の巨大な水槽が現れた。放たれた鉄砲魚の秘宝獣とクラゲの秘宝獣は、ドボンと水の中に飛び込んだ。



【Cランク秘宝獣ー鉄砲魚てっぽううおー】


【Cランク秘宝獣ー宝石海月ジュエリーフィッシュー】


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


戦闘開始の合図と共に、会場が湧いた。


「ジュエリーちゃん、接近して《毒針攻撃》ー☆」


アザトスの指示により、クラゲの秘宝獣の触手が数メートルに渡って伸びていく。


元となった動物は【カツオノエボシ】。多くのヒドロ虫が集まって形成された生き物で、青い宝石とも呼ばれる、電気クラゲだ。


電気クラゲと言っても、実際に電流が流れているわけではない。


噛まれると焼けるような痛みが伴うことからヒアリが火蟻と呼ばれるように、毒による痛みから、電気クラゲと呼ばれているのだ。


「相良丸、《水鉄砲》だ!」


一方、鉄砲魚は読んで字のごとく、口から水鉄砲を放出することからその名が付いたとされている。


水中で放たれた水鉄砲を、クラゲの秘宝獣は触手を使って防ぎ、すぐさま反転攻勢に出た。


「ジュエリーちゃん、《HIDORO・ウェーブ》☆」


クラゲの秘宝獣の無数に伸びる触手が、鉄砲魚の秘宝獣を襲う。そのうちの一本の触手が、敵の体を突き刺した。


鉄砲魚の秘宝獣は、息絶える前に白い球体へと変わり、ヴァルカンの持つ銅色の宝箱の中へと還っていった。


「秘宝大会の時より強くなったようだな」


「お褒めにあずかり光栄ですっ☆」


ヴァルカンは銅色の宝箱をふところへとしまうと、今度は銀色の宝箱、【Bランクの秘宝】を取り出し、開けた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「開宝、大和やまと!」


ヤマトと呼ばれるその生き物は、巨大な水槽の上を浮遊した。


【Bランク秘宝獣―ヤマトシビレエイ―】


「ヤマト、《空中旋回くうちゅうせんかい》!」


シビレエイの秘宝獣は空中で円を描くように周り続けると、水槽の上空に竜巻が起こった。


クラゲの秘宝獣は、竜巻に呑み込まれながら昇っていく。


「ジュエリーちゃん!?」


カツオノエボシは浮き袋を使って海面を漂っている。水属性のエキスパートであるヴァルカンは、その習性を逆手に取ったのだ。


散り散りになったクラゲの秘宝獣は、白い球体となってアザトスの持つ銅色の宝箱の中へと戻ってしまった。


「ええっー!? そんなのずるいですよぅ! 開宝、バッちゃん☆」


アザトスは、アイドル衣装のポケットから、銀色の宝箱、【Bランクの秘宝】を取り出して開けた。


中から飛び出したのは、黄金に輝く蝙蝠こうもりの秘宝獣だ。


【Bランク秘宝獣―ゴールデンバット―】


戦いは水中戦から一転、空中戦へと変わった。


「バッちゃん、《超音波》☆」


「回避せよ、大和!」


コウモリの秘宝獣の口から、高周波の音が放たれた。シビレエイの秘宝獣はかろうじて攻撃を回避した。


「大和、尻尾で薙ぎ払え!」


「バッちゃん、《瞬間移動》!」


体を半回転させ、尻尾で叩きつけに来たシビレエイの秘宝獣の攻撃を、コウモリの秘宝獣は瞬間移動でかわした。


「もう一度、《超音波》☆」


背後に回り込んだコウモリの秘宝獣は、至近距離で超音波を放った。


平衡感覚を失ったシビレエイの秘宝獣は、巨大な水槽の中に墜落ついらくした。


「これでクライマックスー☆ バッちゃん、《スターブラスト》☆」


コウモリの秘宝獣の口に、エネルギーが蓄えられていく。


「大和、《水中旋回すいちょうせんかい》だ!」


水槽の上から、無数の星型の光線が降り注いだ。


シビレエイの秘宝獣は旋回によって、水槽の中から水を巻き上げた。


光線と竜巻が触れた瞬間、水中と空中の狭間で大きな爆発が起きた。


シビレエイの秘宝獣とコウモリの秘宝獣は、同時に白い球体へと変わり、それぞれの持ち主の元へと還っていった。


アザトスは金色の宝箱にキスをして、天高く掲《かか》げた。


煙が晴れると、ヴァルカンも金色の宝箱を手に持っていた。


「みんなー☆ ここからが本番だよー☆」


「いくぞ、アザトス!」


対峙した二人は同時に、「開宝かいほう!」と叫んだ。


そして、手のひらサイズの金色の宝箱、【Aランクの秘宝】を、同時に開けた。

役職説明:【人狼キラー】

人狼と素手で互角に渡り合える人間。

人狼から襲撃を受けた場合に、生存している人狼の中から一人を道連れにすることができる。

基本的には通常の市民と同じ動きを取るが、処刑されてしまっては能力が無駄になるため、積極的に襲撃される様な行動が求められる。

人狼陣営としては、なんとかして処刑しておきたい人物である。

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