「遅くなっちゃった。早くたくみを迎えに行かないと……」
鴇 愛歌は、学校の下駄箱で靴を履き替えていた。そこで偶然、黒城 弾と遭遇した。
「あっ、黒城くん……」
愛歌は何か話したかったが、彼は足早に去ってしまった。
黒城が非干渉主義になったのは、過去の出来事に起因していた。
今年の五月、引っ込み思案な性格から友達のいなかった愛歌は、掃除区域に向かって廊下を歩いていた。
そこで悪い三人組みの少年に、バケツで水を掛けられる虐めにあってしまう。
そんな愛歌を、黒城は助けた。それに勇気づけられた愛歌は、次第に友達ができるようになった。
だが黒城は、次の虐めのターゲットになってしまったのだ。
「黒城くんが誰とも関わろうとしなくなったのは、私のせいなのに……」
愛歌は責任を感じていた。
同時に、黒城が元の性格に戻れるように積極的にアプローチしようと試みていた。
「一緒に遊園地にでも行ければ、黒城くんの心を開けるかも……」
愛歌は前向きに考え直して、遊園地へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あっ、ねぇねからラインだ! 『今から迎えに行くから、入り口の近くで待っててね』って」
「おれの兄貴も、そろそろ迎えに来る時間だな」
「二人とも今日はありがとう! 楽しかった、またね!」
白いうさぎのぬいぐるみを抱いたあかりと別れ、たくみとゆうきは遊園地の入り口へと向かおうとした、一瞬の出来事だった。
「きゃあっ!?」
短い悲鳴が聞こえ、たくみとゆうきは後ろを振り向いた。すると、黒い服装の二人組の男性が、あかりをアタッシュケースの中に詰めていた。
「あかり!?」
「あかりさん!?」
「ヤベェ、見られた!!」
黒い服装の二人組は、あかりの入ったアタッシュケースを持ち、走って遊園地の外へ逃げだした。
「お前ら、あかりを返せ!」
「クソ、まだ追ってきやがる」
「構うな、車にさえ乗込めば、こっちのものだ」
黒い服装の二人組は、駐車場に停めてあった黒いワゴン車の運転席と助手席に乗り込んだ。
子供たちが追ってきていないか、車のミラーで確認する。
「よし、撒いたようだな」
「ん? お前、半ドアじゃないか?」
「ああ、悪い。急いでたからな」
助手席の男がドアを閉め直すと電気が消えた。運転席の男は舌打ち、車を発進させた。
車のトランクの中には、たくみとゆうきの姿があった。
「なんとか乗り込めましたね……」
「よし、車が停まったら、隙をついてあかりを取り返そうぜ!」
「はい、慎重にいきましょう」
遊園地に到着した愛歌は、入り口にいる受付のお姉さんに声をかけた。
「すみません、鴇 たくみ という男の子を迎えに来たんですけど」
「わかりました、園内アナウンスをかけるので、少々お待ちください」
それから数分が経過しても、たくみは入り口に現れなかった。
「おかしいなぁ……。既読にはなってるのに」
愛歌は、もしかしたら外にいるのかもしれないと思い、駐車場を探し始めた。
「たくみー、いたら返事してー!」
愛歌が捜し回っていると、乗用車の後ろに人影を見つけた。
「生徒会長さん……?」
「鴇 愛歌。一緒に来ていただきたいのです」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
白樺イヴは、陽光中学校の北東にある廃墟のビル、『旧秘宝獣研究所』に愛歌を連れ出した。
「計画はどうなっているのです?」
「ええ、お嬢。小学生のガキを何人か、地下に閉じ込めやした」
「誰にも見つかっていないのです?」
「ええ……、誰にも……」
端切れ悪く答えたのは、ゆうきとたくみに姿を見られていたせいだ。
「では誘拐した子供たちに、例の秘宝獣を昇華させるのです」
イヴは、うさぎが大量に入ったゲージと、同じ数の金色の宝箱を二人組の男性に渡し、愛歌を連れて最上階へと向かった。
「生徒会長さん、さっきのあれは……?」
「日属性の秘宝獣、《アルミラージ》を昇華させるのですよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数分後、乃呑も旧秘宝獣研究所に到着した。
「なんか生徒会長の手のひらで踊らされてる気がするけど、何もしないのも落ち着かないし。それに、あいつだけは許せないし……」
乃呑は苦虫を噛み潰すような表情で言った。
「あっ、菜の花さん!」
ふいに誰かが乃呑に話しかけた。振り向くと、先にビル内に潜入していた、ゆうきとたくみの姿があった。
「愛歌の弟くん!? どうしてこんなところに?」
「ぼくの友達がここに連れて来られたんです。今、助けるタイミングを伺っていて」
「あの地下に連れていかれたけど、二人組の奴と、派手な髪色の奴が中にいるから、下手に近づけないぜ」
「派手な髪色……?」
ゆうきの台詞に、乃呑はピンときた。人狼キラーを騙っていた、サイコキラーだ。
「とにかく、中の状況が全くわからないね」
乃呑は鉄製の扉に張り付き、聞き耳を立てた。
「うわーん。怖いよーーー」
「また月属性か……。使えねェガキだ」
サングラスをかけた赤髪の男性、Jは、吐き捨てるように言った。
「おい、次はそこのお前だ。コイツを昇華させてみろ」
Jが指名したのは、あかりだった。二人組の男性は、あかりに金色の宝箱と白いうさぎを手渡した。
あかりは戸惑った様子で、金色の宝箱を持って白いうさぎの前に立った。
そして、金色の宝箱をうさぎの体に当てた。うさぎは白い球体となって宝箱に吸い込まれた。
「よし、開けてみろ」
Jに言われ、あかりは小さく頷いた。
金色の宝箱から出てきたうさぎは、光を纏っていた。
「成功か!?」
「……いいや、こいつもハズレだ」
Jは苛立った様子で、あかりを見下ろした。
「確かに珍しい。俺も初めて見た。……が、コイツは木属性の秘宝獣だ」
【Aランク秘宝獣ーアルミラージュー】
「目当ての物とは違う。こいつもゴミ同然だ……」
苛立ちが募っていくJ。その時、地下の鉄製の扉が蹴破られた。
役職説明:【女王】
市民ならば誰でも知っている愛すべき女王。
死亡すると人狼と妖狐以外の全員が死亡する。
誰が女王か市民陣営の人は全員知っているが、他の陣営の人は知らない。
また、女王が死んだ時に生霊の能力が発動した場合、生霊が新しい女王となり市民陣営は後追いをしない。
女王が死亡するだけで市民陣営は敗北となるので、正体がばれないように市民全員が一丸となって行動する必要がある。
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