ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

遊園地

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,602

太陽の光が眩いくらいに差し込み、子供たちの元気な声が聞こえる町、陽光町ようこうちょう


そんな町の商店街の通りを、栗毛色の髪の姉弟きょうだいが手を繋ぎながら仲睦まじく歩いていた。


「知ってる? 陽光公園に新しいアミューズメント施設ができるんだって!」


「アミューズメント施設?」


栗毛色の髪を上部で編み込んだ、スクールセーラーを着た少女は、キョトンとした表情で聞き返した。


「うん! ずっと建設中だった場所。あそこが遊園地としてオープンするんだって!」


弟は手に持っていたパンフレットを姉に手渡した。パンフレットには大々と、『遊園地、プレオープン記念!』と書かれており、日付は今日となっていた。


「そうなんだぁ、私、全然知らなかった」


「この広告、小学校で貰ったんだよ!」


パンフレットの右上には三角形の切り取り線があり、小学生以下限定と書かれている。これが入場券として使えるようだ。


「それでね、ゆう君と待ち合わせの約束してるんだ!」


「ゆうきくん?」


「うん!」


(じゃあもしかして、黒城くんも来てくるかも……。って、何考えてるんだろ私!)


「……? どうしたの、ねぇね」


栗毛色の髪の少女は、赤らめた頬をブンブンと左右に振っていた。


商店街を抜けると、目の前に公園があった。ここが遊園地のプレオープンが行われるという陽光公園だ。


「着いた!」


弟は公園に着くや、数メートルほど走って姉に手を振った。


「たくみ、一人でも大丈夫?」


「うん! ここまでありがとう!」


「どういたしまして」


(小学生以下限定のイベントかぁ……。遊園地、私も遊びたかったなぁ……)


中学二年生の栗毛色の髪の少女は、弟を笑顔で見送ってその場をあとにした。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


真逆の方角からは、黒髪の少年と黒髪の男の子が遊園地に向かって、距離を空けながら歩いていた。


「いつまで着いてくるんだよ、兄貴……」


「…………」


黒髪の男の子は、無言で少し後ろを歩く黒髪の少年に話しかけるが、黒髪の少年は何も答えなかった。


すると黒髪の少年のポケットから、青い雛鳥ひなどりがひょこっと顔を出して言った。


「アンタ一人だと心配だからッ、着いて来てあげたのよッ」


「ガキじゃないんだし、平気だよ」


「なにかと物騒な世の中なのよッ」


陽光町は治安の良い町ではあるが、黒髪の少年は弟を心配して着いてきたようだ。


「ところでなによッ、アンタの持ってるそれッ」


「これか? これは今日プレオープンの遊園地のパンフレットだぜ!」


黒髪の男の子が青い雛鳥に見せたのは、さっきのと同じパンフレットだ。


「あらッ、秘宝バトルのイベントもあるのねッ」


「そう! そうなんだよ!」


青い雛鳥のつぶやきに、男の子は勢いよく食いついた。


「今日のイベントには、秘宝大会三位のヴァルカンが来るんだ! 生でベストエイトの試合を見られるなんて、行くしかないだろ!」


それを聞いた青い雛鳥は、黒髪の少年の肩を掴んでゆさゆさと揺らした。


「黒城ッ、アタシもその大会出るわッ!」


「……興味ない」


「なんでよッ!?」


「……俺は非干渉主義だ。誰かと競うようなことはしない」


「またそれッ!? そうやってアンタは……」


青い雛鳥がピィピィと騒ぎ、黒髪の少年が無言で聞き流す、いつもの光景である。


そうこうしているうちに、目的地に到着した。


「あっ、いました! ゆうくーん!」


「おー! たくみー!」


遊園地の入口で、栗毛色の髪の男の子、たくみが手を振っていた。黒髪の男の子、ゆうきは手を振り返して駆け寄った。


「悪い、待たせちまったな」


「いえいえ、ぼくも今来たところですから」


たくみは姉の前以外では、基本的に敬語を使う。年下や同い年の相手に対しても。


「さっそく中に入ろうぜ!」


「そうですね!」


ゆうきとたくみはパンフレットに付いていたチケットを切り取り、受付のお姉さんに手渡した。


「ニ名様ですね、いってらっしゃい」


受付のお姉さんは笑顔で、二人を遊園地の中へと通した。


無事を見届けた黒髪の少年は、きびすを返して自身が通う学校へと向かった。

役職説明:【市民】

なんの能力も持たないただの人。

逆に、なんの能力も持っていないからこそ、人狼に噛まれることを恐れず、自分の推論を述べることができる。

ただし、自分から市民であることを明かすことは悪手である。なぜなら特別な役職の潜伏枠を狭めることになるからだ。

基本的には役職者の盾となり、市民陣営の勝利のため、処刑されることもいとわない心構えが必要となる。

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