ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

遊園地②

公開日時: 2020年9月1日(火) 12:00
文字数:2,356

秘宝バトルのステージを見終わった二人の男の子、ゆうきとたくみは、遊園地内のアトラクションを満喫していた。


「たくみ、次はあのアトラクション乗ろうぜ!」


「待ってよ、ゆうくん。少し休憩しよ?」


「なんだよ、休憩なんてしてたら、アトラクション制覇できないぜ?」


ゆうきとたくみがどうするか話し合っていると、遊園地の片隅で泣いている女の子を見つけた。


ゆうきとたくみは互いに頷くと、声をかけに行った。


「あの、大丈夫ですか?」


「どうして泣いてるんだ?」


「ママに置いてかれちゃたの……」


女の子は泣きじゃくりながら、その場に膝をついた。たくみは励まそうと必死だった。


「きっと閉園の時間になる頃には迎えにきますよ!」


「おれの兄貴もそう言ってたぜ!」


「でもわたし、一人だもん。そんなに待てないよ……」


女の子が言うように、閉園までにはまだかなりの時間があった。


「じゃあ、おれたちが一緒に居てやるよ。それなら寂しくないだろ?」


「そうですね! 一緒にアトラクション巡りしませんか?」


「……うん」


女の子は、二人の男の子の手を握って笑った。


「わたしは、あかり。あなたたちの名前は?」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あかり、次はあれがいい!」


「えー、あんなのガキっぽくて嫌だぜ」


「ゆうくん、アトラクション制覇するんじゃなかったんですか?」


「うっ……。分かったよ……」


あかりはメリーゴーランドの列に並んだ。


「二人とも、早く早く」


「ゆうくん、行きましょう!」


「ああ、いま行くぜ!」


嬉しそうなあかりの姿に、ゆうきも嫌々さが消えていった。


メリーゴーランドの次にあかりが向かったのは、お化け屋敷のアトラクションだ。


「あかり、ちょっと怖いけど挑戦してみる!」


「お、お化けなんて子供騙しだぜ……」


「なんだかわくわくしますね!」


お化け屋敷に入る前から怯えているあかりとゆうきに対し、たくみは平然としていた。


「お部屋、真っ暗! 二人とも、はぐれないようにわたしと手を繋いで!」


「まったく、あかりは怖がりだな……」


「あはは、ゆうくん声が震えてますよ」


「ふっ、震えてねぇぜ! こんなん余裕だぜ」


ゆうきは度胸を見せようと、奥へと走って行った。


「あっ、ゆうくん!?」


「ゆぅくん、一人で行っちゃだめ!」


「うわぁぁぁぁっ」


ゆうきが走って行った先から、彼の悲鳴が聞こえた。


ゆうきは全速力で来た道を戻った。


「で、ででで、出たんだよ! 甲冑の騎士のお化けが!!」


「ええっ!? 本物のお化けがいたの……?」


「ゆうくん、きっとそれは置き物ですよ。目が赤く光ったりするのも、お化け屋敷ではよくある仕掛けですよ?」


「いやいやいや、いたんだよ! まっすぐ走ってたら、ぶつかったんだ!」


「あかり怖い……。手繋いでいこう?」


「あかりさん、分かりました。大丈夫ですよ、驚かせるための演出ですから」


「お、おれの話は本当だぜ!?」


子供たち三人は、順路をまっすぐ進んだが、甲冑の騎士はどこにも見当たらないまま、出口へとたどり着いた。


「二人とも、あれが出口じゃない?」


「甲冑の騎士なんて、いませんでしたね」


たくみはゆうきだけに聞こえるように、小声で続けた。


「ゆうくん、あかりさんを楽しませるように作り話してくれたんですね!ありがとうございます!」


「やっぱりあれは本物の幽霊だったんだ……」


「えっ……?」


ゆうきは青ざめた顔で、身を震わせていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「よっし、アトラクション全制覇だ!」


「やったね、ゆうくん!」


夕暮れ時、ウォーターコースターを乗り終えた子供たちは、歓喜していた。が……、


「うぅ……。ぐすん……」


「あかり、どうした?」


「どうしたんですか、あかりさん」


ゆうきとたくみが心配すると、あかりは「だって」と泣き始めた。


「あかり、また一人ぼっちになっちゃう……」


あかりは男の子たちとの別れを惜しんでいた。


「だからって、ずっと居るわけにはいかないだろ?」


「困りましたね……」


たくみはキョロキョロと辺りを見渡すと、「そうだ!」と何かを閃いたようだ。


たくみが見つけたのは、ダーツ屋と書かれた店だ。


「よう坊主、ダーツ三回で五百円だ。やってくかい?」


たくみは財布の中を確認した。百円玉が三枚と、あとは小銭だけだ。


「おれ、二百円なら持ってるぜ!」


ゆうきは百円玉を二枚、たくみに渡した。これで合わせて五百円だ。


「真ん中に当てたら百点、その付近に当てたら五十点だ。頑張んな」


たくみはダーツの矢を三本貰い、一本をゆうきに渡した。あかりは泣き止んで、二人の様子を見つめている。


「えいっ!」


たくみがダーツの矢を投げた。ダーツの矢は、五十点の円の中に突き刺さる。


「いいぞ、たくみ!」


「……たっくん、頑張って!」


ダーツの得点によって、貰える景品が選べるようだ。今の点数だと、駄菓子レベルだ。


「今度こそ、えい!」


たくみは二本目のダーツの矢を投げた。ダーツの矢は、再び五十点の円の中に刺さる。


この点数だと、小さなマスコットの景品が貰えるようだ。


「ゆうくん、後はお願いします!」


「ああ、おれに任せろ!」


たくみが立っていた位置に、ダーツの矢を持ったゆうきが立った。あかりも「頑張れ」と応援していた。


「いくぜ、当たれ、真ん中!」


二人が応援する中、ゆうきの投げたダーツの矢は、真ん中の百点の円に見事刺さった。


ダーツ屋のおじさんは、特等の白いうさぎのぬいぐるみを、ゆうきに渡した。


「おめでとう、これが二百点の景品だ!」


「ぬいぐるみ……? たくみ、これでよかったのか?」


「はい! さすがゆうくんです!」


たくみは白いうさぎのぬいぐるみを、ゆうきと一緒にあかりへ手渡した。


「あかりさん、ぼくたちからのプレゼントです!」


「おれたち、陽光公園によくいるから、また遊ぼうぜ!」


「ゆぅくん、たっくん、ありがとう!」


あかりは白いうさぎのぬいぐるみを受け取ると、満面の笑みを見せた。

役職説明:【殉職者】

自分が信じるもののため命を落としたい人間。

どの陣営が勝利したかは関係なく、自分が死亡すると追加で勝利となる。

ただし、突然死した場合は勝利にならない。

自分の正体が判明してしまうと、処刑先にも襲撃先にも選ばれにくくなるため、基本的にはできるだけ正体は隠しながらチャンスをうかがう。

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