「開宝、ハーブ! 《イルカアタック》!」
「Quuuu!」
「ぐはっ!?」
乃呑と共に現れたのは、アマゾンに実在する珍獣。ピンクイルカの秘宝獣が、Jの背中に激突した。
【Aランク秘宝獣―桃イルカ―】
「みんな、今のうちにここから逃げて!」
「出口まで、ぼくとゆうくんが案内します! 急いで!」
地下室に連れて来られていた子供たちは、一斉に出口に向かって走った。
雇われの二人組の男性たちも、情けない声を出しながら掛け走る。
「アンタたちはッ、逃さないわよッ!」
一羽の青いひな鳥が、二人組の男性の真上を飛翔した。
「ピーちゃん!? どうしておれのポケットから……」
「もしもの為にッ、黒城がポケットに忍ばせていったのよッ」
「……ったく、兄貴、心配し過ぎだぜ」
「喰らいなさいッ、《火炎弾直球》!」
「うぎゃぁぁぁっ!」
「ごめんなさぁぁい!」
二人組の男性は、青いひな鳥によってあっという間に成敗された。
「おっと、そこまでだ!」
形勢逆転かと思いきや、Jは逃げ遅れたと思われる子供を一人、人質に取っていた。
「っ……! 子供を人質に取るなんて、卑怯者!」
「卑怯? ルールも何もありャしねェよ!」
Jは、男の子にヘッドロックをかけた状態で、ライターを着火する。
「出てこいカマイタチ! イルカの秘宝獣を八つ裂きにしろ!」
Jが呼ぶと、部屋に潜んでいたイタチの秘宝獣が姿を現した。
【Aランク秘宝獣―カマイタチ―】
「カマイタチ、《イタチカゼ》!」
イタチの秘宝獣は、鎌のような形状の尻尾を振り回し、風を起こした。おそらく《イタチ》と、刀を振ったときに生じる風圧、《太刀風》を掛けた技名だろう。
「ハーブ、《バブルリング》!」
「おっと、秘宝獣に指示を出すなよ?」
「っ……!」
人質を取られ、乃呑はピンクイルカの秘宝獣が傷つく様を、ただじっと見ていることしかできなかった。
「トドメだ、カマイタチ!」
竜巻が、ピンクイルカの秘宝獣を切り裂いた。ピンクイルカの秘宝獣は、白い球体となって乃呑の持つ金色の宝箱へと戻っていく。
「ごめん、ハーブ……」
「ケハハハ、残念だったなァ! これで俺の勝ちだァ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……幸と不幸の反動に、差し込んだのは暖かな光……! 開宝! フェンネル!!」
「Aoooun!!」
雄叫びとともに現れたのは、白銀色の狼の秘宝獣だ。
「なっ……、馬鹿な!? 秘宝バトルは負けた時、それよりランクが上の秘宝獣しか出せないはず!?」
公式ルールに則れば、秘宝獣は【Cランク】→【Bランク】→【Aランク】のように、ランクが上の秘宝獣を出していく。
「あんたさっき、ルール無用って言わなかった? それに、これはルール通りだよ……!」
モデルはおそらく、北欧神話の獣、《フェンリル》だろう。さらに宝箱の中から、三つの自律起動砲塔が現れて上空を漂う。
【Sランク秘宝獣―フェンネル―】
「フェンネルのCIP効果、《ビット・サモン》! この砲塔は、フェンネルの攻撃と連動して、自動で追加攻撃を与える!」
「Sランク秘宝獣……だと!? そんなの、聞いたこともねぇぞ!? カマイタチ、《イタチカゼ》!」
鎌から放たれる衝撃波が、狼の秘宝獣の皮膚を切り裂く。乃呑は状況を打破する方法を、ずっと考えていた。
その時、人質に取られていた男の子がJの腕に噛み付いた。そして男の子は、自力で脱出した。
「痛ぇっ! このクソガキ……」
「今! フェンネル、《迅狼》!」
風の如きスピードで、狼の秘宝獣がイタチの秘宝獣に突進した。攻撃に連動するように、三つのビットから光線が、J目掛けて放たれる。
「痛ェ、このくそ野郎……」
光線を身体に受けて、Jの服は焦げ跡が残っていた。
その隙に、人質になっていた男の子は、乃呑の後ろに隠れた。
「これで形勢逆転だよ! さっさと諦めて、降伏して」
「見下しやがって……! カマイタチ、あの技だ!」
イタチの秘宝獣は、再び風を巻き起こした。その風は赤色に染まった。
「ハハハハッ、血色の竜巻で全てを切り裂け! 《ダイバカゼ》!」
「……どうして、勝てると思っちゃったのかな?」
乃呑はポツリと呟いた。
「はっ? 泣き言か?」
「勘違いしないで。あんたのこと言ってるの!」
「は? なんだと?」
乃呑は、白銀色の宝箱に想いを込めた。秘宝の中に、光のエネルギーが満ちていく。
「な、なんだその光は……」
「知らなくて当然だよ。だってこの力は、秘宝大会が終わった後、手に入れた力なんだから」
乃呑は、秘宝に満ちたエネルギーを、狼の秘宝獣に向けて解き放った。
「解放! フェンネル、《ユニゾンバースト》!」
三つの自律起動砲塔が結合し、一つの巨大な砲塔となった。
「はっ、そんなもの、ハッタリだ!」
「フェンネル、《ブレイクバースト》!」
巨大な砲塔から放たれた眩い光が、カマイタチの秘宝獣を消し去った。そして、白い球体となって秘宝の中へ還っていった。
「バ、バカな…………!!」
乃呑は後ろに隠れていた男の子に、優しく声をかけた。
「ごめんね。怖かったよね。でも、もう大丈夫」
乃呑は男の子を背負い、出口に向かって歩き出した。
「私は何があっても絶対に、正義の味方だから……!」
役職説明:【狩人】
静かに人々を守る、凄腕の狩人。
毎夜、一人を人狼の襲撃から守ることができるが、自分を守ることはできない。
基本的には、できるだけ生存し続け、重要な人物を守ることが使命である。
正体がさらされると真っ先に人狼の襲撃候補となってしまうため注意が必要。
ただし、寡黙になりすぎるのも危険だ。
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