ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

生徒会

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:1,608

――その頃、陽光中学校の生徒会室。


生徒会のメンバーは各々資料を眺めながら、縦長の机を囲んでいた。


学生帽を目深に被った少年が、生徒会書記の徳井とくい しゅう


黒い短髪のボーイッシュな少女が、会計の中八児なかやちご 麻美あさみだ。


定刻より少し前に、誰かが生徒会室の扉を開けた。


中八児は「あわわっ」と驚き、こっそりと食べていたガムをゴクリと飲み込んだ。


生徒会室に入ってきたのは、茶髪のポニーテールの少女だ。


「おはよう。生徒会長はまだかな?」


「なーんだ、乃呑ちぃか。びっくりして損しちゃった」


麻美は安堵の息を漏らすと、すかさず飴玉を自分の口に放り込んだ。


茶髪のポニーテールの少女は席につくと、自分の机に置かれていた資料をペラペラと流し読みした。


彼女の名は、菜の花なのばな 乃呑のの。生徒会の副会長だ。


「ふあっ……。皆さん、おはようなのです」


直後、生徒会長の白樺しらかば イヴが、眠気眼を擦りながら生徒会室に入ってきた。


「んんっ!? ムグ〜!」


余裕の態度で飴玉を頬張っていた中八児は、驚いて飴玉を丸ごと飲み込んでしまった。


銀色の長髪をなびかせ、学ランを袖を通さずに羽織った生徒会長は、最奥の席に座った。


「? どうしたのです、中八児 麻美」


「あー、彼女のことは気にせず本日の議題へうつりましょう」


乃呑はそう言って、生徒会長にマイクを手渡した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「兼ねがね説明している通り、今日の会議では本校から除籍する生徒を決めようと思うのです。異議のある方は挙手を」


イヴは手慣れた様子で会議を進行していく。


「まず一人目、金剛こんごう  宇利亜うりあ。入学当初から素行が悪く、止めようとすると暴れまわり、全教室の窓ガラスを破壊してまわる始末。彼の除籍処分に異議を唱えるものは挙手を」


生徒会室は静寂に包まれていた。手は一つも挙がらない。


「では金剛 宇利亜を、全会一致で除籍するのです」


イヴは、次の資料に目を通すように指示した。顔写真は、特徴のない黒髪の少年だ。


「二人目は黒城こくじょう だん。寡黙で挨拶すらろくにしない。最近では授業中に教室を出たり、授業をさぼり屋上で寝ていることも多い。彼の除籍処分に異議を唱えるものは挙手を」


手は一つも挙がらない。


「では黒城 弾を、全会一致で除籍するのです」


イヴは最後の資料を読み上げた。顔写真には、栗毛色の髪を上部で編み込んだ少女が映っていた。


「最後に、とき 愛歌あいか……」


その名を読んだ途端、乃呑は激しく動揺した。


「彼女は、一年生の時に虐めを受けていたのです。虐めゼロを掲げる本議題において、虐められる側にも原因があるはず。彼女の除籍処分に異議を唱えるものは……」


「面倒だなぁ、全員除籍してしまえばいいんだ」


 静まっていた生徒会室に、学生帽を目深に被った男の声が響いた。


「火のないところに煙は立たぬ。候補に上がる時点で、全員【黒】なんだよ」


徳井は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。


イヴは、無視して続けた。


「鴇 愛歌の除籍処分に異議を唱えるものは挙手を」


戸惑いを見せつつ、乃呑の手が挙がった。


「愛歌はもう虐められていません。クラスにも馴染めています」


「乃呑ちぃがそう言うなら私もー」


便乗するように、麻美が笑顔で手を挙げた。


「僕の意見はさっき述べた通りだ」


「……賛成二票、反対二票、ですか」


「ちょっと! 勝手に終わらせないでよ!」


イヴが早々に会議を終わらせようとすると、乃呑は席を立ち上がった。その様子を、徳井は驚いた様子で眺めていた。


「どうしたのです、菜の花 乃呑」


「どうしたもなにも、勝手すぎる!」


資料を片付けて退室しようとしていたイヴは、眉を潜めた。


「……気が変わった。僕も鴇 愛歌の除籍には反対だ」


殺気立った空気の中、徳井はヒラリと手のひらを返した。


「……徳井、どういう風の吹きまわし?」


「まぁまぁ乃呑ちぃ、何だっていいじゃん!」


賛成三票、反対一票。鴇 愛歌の除籍処分は保留になった。


「……以上で本日の議会は終了なのです」


他の生徒会メンバーも生徒会室から出ていく中、乃呑は徳井のことをずっとにらんでいた。




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