ヨハネと獣の前日談

〜人狼ゲームを題材にした推理小説〜
上崎 司
上崎 司

最終話

公開日時: 2020年9月2日(水) 17:00
更新日時: 2020年9月9日(水) 12:22
文字数:2,694

学校の帰り、弟からのスマホのメッセージを受けた黒髪の少年は、しぶしぶ廃墟のビルに迎えに来た。


「遅いわよッ、黒城ッ」


「……ヒナコ、何かあったのか」


「事件よッ。児童誘拐事件ッ」


青いひな鳥は黒城に、あかりという少女が誘拐されそうになったこと、乃呑と協力して子どもたちを無事に救出できたこと、乃呑とヴァルカンが、このビルの最上階に向かったことを話した。


「……っという訳なのよッ。アタシたちも加勢に行くわよッ」


「……興味ない。俺は非干渉主義だ」


「またそれッ!? つべこべ言わずに行くわよッ!」


青いひな鳥は、嫌そうな顔をする黒髪の少年の袖を無理やり引っぱってエレベーターに乗り込み、最上階へのボタンを押した。


「着いたわッ。乃呑ちゃんとヴァルカンは……?」


青いひな鳥が黒城を連れて大広間に入ると、部屋の中央に一人の少女が立っていた。


「やはり来ましたか、黒城 弾。ですが、遅かったのです」


その近くには、横たわった状態の男女が一人づつ。彼女との戦いに敗れた、乃呑とヴァルカンだ。


「くっ……強すぎる……」


「ぐっ……引き返せ、適う相手ではない……」


「黒城 弾。この光景を前にしても、私に挑むつもりですか?」


黒城はしばらく黙り込んだ後、言った。


「…………ああ」


「愚かな。身の程を知るのです」


白樺 イヴはそう告げると、黒色の宝箱、【Sランクの秘宝】の蓋を開けながら続けた。


「開宝、ダムドレオ」


秘宝の中から現れたのは、隻眼の黒豹の秘宝獣。


【Sランク秘宝獣ーダムドレオー】


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「Guluaaaaa!!」


激しい雄叫びと共に、黒豹の秘宝獣が青いひな鳥に襲いかかった。


「油断しましたね、黒城 弾。ダムドレオのCIP場に出た時効果は、《強襲アサルト》。初撃の威力を、最大まで上げるのです」


先程の戦いで、ヴァルカンを倒す時に使われた能力だ。


まともに喰らえば、青いひな鳥も戦闘不能になるだろう。が、


「……ヒナコのCIP場に出た時効果、《不死鳥の加護》。どんな攻撃も一度だけ無効にするバリアだ」


「勿体ないけど仕方ないわねッ……」


青いひな鳥は、攻撃を防ぐバリアを張っていた。


黒豹の秘宝獣は攻撃をやめ、一旦態勢を立て直す。


「それも計算のうちなのですよ。ダムドレオ、《ダーク・ダイブ・モード》」


黒豹の秘宝獣は、闇の衣、もとい漆黒のオーラを身に纏った。


先程の戦いで乃呑が奥の手として使った、《ユニゾンバースト》と呼ばれる技だ。


「今度はこっちから行くわよッ、《火炎弾直球ひのたまストレート》」


青いひな鳥が口から放った火炎弾は、漆黒のオーラに呑まれ、消えてしまった。


「嘘ッ!? 《火炎弾直球ひのたまストレート》が効かないッ!?」


「……落ち着けヒナコ。月属性のダメージバリアだ」


ダメージバリアは、一定以下のダメージを無効にしてしまう。


「それだけでは無いのです。ダムドレオの《ダーク・ダイブ・モード》は、体力が減り続ける代わりに、攻撃力と素早さを上昇させていくのですよ」


乃呑のSランク秘宝獣、《フェンネル》は長期戦を得意とする秘宝獣だ。


その逆に、イヴのSランク秘宝獣、《ダムドレオ》は短期戦を得意としており、その速攻に乃呑も勝てなかった。


「どうするのよ黒城ッ! これ以上パワーアップされちゃたら、アタシの身が保たないわよッ!?」


「……ヒナコ、とにかく逃げまわるんだ」


黒城はそう言うと、青いひな鳥と黒豹の秘宝獣の攻防を、無言のまま観察を始めた。


♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆


「ダムドレオ、《レイジング・ファング》」


「Guluaaaa!」


「喰らいなさいッ、《蒼炎弾そうえんだん》……きゃあッ!?」


青いひな鳥は火炎弾の上位技を放つも、黒豹の秘宝獣は恐れずに突っ込んできた。


間一髪のところで躱したが、青いひな鳥の体力は限界に達していた。


「もうお終いなのです? 黒城 弾……」


「何やってんのよ黒城ッ、早くアタシに指示を出しなさいッ」


「……ヒナコ、目くらましだ」


「分かったわッ、《光炎弾こうえんだん》!」


青いひな鳥は、白い火炎弾を放ち、部屋全体を明るく照らした。


すると黒豹の秘宝獣の攻撃が、驚くほどに当たらなくなった。


「……やったわ黒城ッ! 思ったより効いてるわよッ」


「黒城 弾……。目の不自由なダムドレオの弱点を狙うとは、卑劣な手を考えますね」


失明の検査に、明暗弁という検査法がある。ダムドレオの場合、閉じている眼を開けることはできないが、明るいか暗いかの判別はできる、と黒城は推察したのだ。


その時、部屋の奥から誰かの足音が近づいてきた。


♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆


「もうやめて、黒城くん!!」


「……鴇? どうしてここに……」


足音の人物は、栗毛色の髪の少女、愛歌だった。


「鴇 愛歌、今は戦闘中なのです」


「ごめんなさい。けど、生徒会長さん、黒城くんは多分、敵意は無いんだと思います」


「それは、どういうことなのです?」


愛歌は戦いに割って入ると、黒豹の秘宝獣に近づいていった。黒豹の秘宝獣は警戒し、「Gululu……」と喉を鳴らす。


「だってこの子、本当の意味での『光を失っていない』から」


「そんなはずはないのです。ダムドレオは5年前、人間によって左眼を潰されたのです。だから私は、その眼を完治させようとして……」


「この子にとっての光は、生徒会長さんなんだよ」


「私が……ですか?」


鴇 愛歌は黒豹の秘宝獣の頭を、優しく撫でながら笑った。


「うん。だから、たとえずっと眼が見えないままでも、生徒会長さんの側にいられる事の方が、幸せだと思うな」


「ダムドレオ、本当なのですか……?」


黒豹の秘宝獣は言葉を理解したように、コクリと頷いた。


「……やれやれ。これで一軒落着だな」


こうして児童誘拐事件は幕を閉じた。


だがこの事件は、後に語られる大事件の、前日談にすぎないのである。


♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆


「ハァ……ハァ……。あのクソ野郎……」


仰向けになったまま、Jジェイの身体は動かなかった。


このまま警察が来れば、それで終わりだろう。


「だが、俺がこれで終わると思うなよ……」


Jジェイは最後の力を振り絞り、ライターに火をつけた。そして、よく燃えそうな物を見つけた。だが……。


「終わりだよ。キミはもう終わり」


「だ、誰だ、お前は……」


Jジェイの前に現れたのは、黒い短髪の少女、麻美だった。


「だからこれは、返して貰うよ」


麻美はJジェイの持っていた金色の宝箱を奪いとった。


「待て……、それは俺の秘宝獣だぞ……!?」


「これがキミの物だという証拠はあるのかい?」


「ぐっ……。テメェ、一体何者だ……」


「僕の名はハストゥル……。ハストゥル・スカーレッド」


気がつくと麻美の身体は、異形の化け物のように変化していた。


「なんだよこれ……ギャアァァァ」


「おかえり、カマイタチ……」


地下室に、断末魔が響いた。麻美は人間の姿に戻ると、奪った金色の宝箱をスカートのポケットにしまった。


役職説明:【天の邪鬼】

市民陣営にとってはもはや敵陣営の一員であり、

基本的には正体を知られてはならない役職である。

その一方で、たとえ自身が死亡したとしても勝利条件には触れないため、

市民陣営以外の陣営を勝利に導くためにできる立ち回りは幅広く、非常に自由度の高い役職とも言える。



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