殿水が感嘆とする。鈴鹿が首を傾げる。
「きゅ、救世主?」
「そう、この美馬くんはパッローナという異世界を六度も救ったのよ!」
「ろ、六度も⁉」
「まあ、それほどでもない……」
「鈴鹿ちゃん、ちゃんと顔を合わせてお礼を言おうか」
「芙蓉さん、そうですね……うわっ⁉」
鈴鹿たちはモニターをテネブライと繋ぐと驚く。美馬の斜め後ろに古代ローマ人のような服装をして、背中に蝶のような羽が生えた、虹色坊主頭のマッチョがいたからである。
「うわ⁉ってなんやねん! 随分とご挨拶やな!」
「す、すんません……えっと……」
「ワシはナー=ランべスや! 詳細は省くけど……要するにフェアリーや!」
「全然要してないだろう……」
ナーの雑な自己紹介に美馬が呆れる。
「ああ、フェアリー……分かりました」
「分かったのか⁉」
鈴鹿の反応に美馬が驚く。芙蓉が呟く。
「多様性ですからね……そういう自己認識の方がいらっしゃっても良いと思います……」
「待てや、なんや勘違いしているな、姉ちゃんら!」
「お前らが待てや!」
「あん⁉」
通天閣に白い機体が向かう。その機体は足の裏に車輪を付けており、素早いスピードであっという間に通天閣の下まで到着する。土友が淡々と告げる。
「社団法人岸和田青少年暖簾会の『ごんたくれ』だ。そういえば奴も志渡布一派だったな」
「どう? 鈴鹿ちゃん……」
「えっと……まあまあ悪い奴!」
「鈴鹿ちゃんの勘はよう当たるからな……それ!」
芙蓉と鈴鹿がバブーとゼファーを地上に着地させる。殿水が尋ねる。
「ど、どうするつもり⁉」
「ここはウチらに任せて下さい! 芙蓉さん、舗装された道路ですよ?」
「トッキ―サは悪路だらけやったからなあ……」
「何をごちゃごちゃ抜かしとる!」
「はっ!」
「なっ⁉」
ごんたくれが慌てる。ほとんど一瞬でゼファーが目前に迫っていたからである。
「そ~らっ!」
「うおっ⁉」
ゼファーがごんたくれを投げ飛ばす。そこにはバブーが待ち構えていた。
「オーライ、オーライ……せいっ!」
バブーがサッカーのオーバーヘッドキックの要領で、ごんたくれの腹部を蹴り、地面に叩きつける。ごんたくれは一撃で動かなくなった。ゼファーはバブーに近づき、機体同士で手を組んで、お互いが同じ方向を見て声を上げる。
「「ほんま、おおきに!」」
「剣と魔法使いなさいよ!」
殿水が思わず声を上げる。
「え?」
「魔法……?」
鈴鹿たちが不思議そうな反応をする。
「いや、アンタたちが言ったんでしょ、魔法技術がどうたらこうたらって!」
「そんなこと言いましたっけ?」
「言ったわよ!」
「そんなんどうでもよろしいわ!」
風の声が響く。
「あ……」
「さっきからうちらのことを無視してくれよってからに……」
「いや、違うのよ。無視はしていないわ」
「え?」
「忘れていたの」
「キッー‼ 雷!」
「ええ、風姉さま!」
「このボンクラどもをまとめていてこまします!」
「はい!」
「「リェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン!」」
風神雷神の近くで、不思議な光が放たれる。雷が戸惑う。
「な、なんや⁉ あっ⁉」
千歳姉妹が唖然とする。そこにはフリフリのフリルや可愛らしいリボンがいくつもついたピンク色の人型ロボットが空中に浮かんでいたからである。
「……魔法少女ロボ、『仁尽』! キュートに参上! 良い子の皆、よろしくね!」
「うわっ! 魔法少女や! 芙蓉さん、魔法少女ですよ!」
「お子ちゃまやなあ、鈴鹿ちゃんは……ああいうのはJCで卒業するもんやで?」
「中学生でも遅いでしょ。まあ、人それぞれだから別にいいけど……」
殿水がボソッと呟く。芙蓉が軽く咳払いする。
「お、おほん……ま、まあ、童心に返って応援するのも悪くないかもなあ……」
「そうでしょ⁉ えっと……仁尽?頑張れー!」
「応援ありがとう!」
「ひゃあ⁉」
鈴鹿たちが驚く。繋いだモニターに中性的な声色で、顔と尻尾こそ可愛らしいリスであるが、頭身と手足は完全に人間というものと、オールバックで金縁のサングラスをかけており、額と目尻と顎に大き目の刀傷が付いているフリフリのドレスを着た男が映ったからである。
「ボクはカナメ! こっちのカタギに見えない方が日下部和志! よろしくね!」
「は、はい……」
鈴鹿が若干怯えながら頷く。
「くっ、けったいなロボットめ!」
「おらあっ!」
「がはっ⁉」
雷神が雷撃を放とうとした瞬間、仁尽が距離を詰め、思い切り殴り飛ばす。日下部が呟く。
「お嬢さん、勘弁してつかぁさい……アンタの雷撃は厄介なもんで……」
「だから魔法を使いなさいよ!」
殿水が再び声を上げる。
「い、雷! お、おのれ! 特大の竜巻を喰らいなさい!」
「そうはさせん!」
「ぐはっ⁉」
風神に対し、電光石火が斬りつける。殿水が驚く。
「大洋くん⁉」
「京都から駆け付けました! 加勢します!」
「ちっ、電光石火まで来よったか……頭を冷やして……ここは撤退させてもらいます!」
風神が手をかざすと、その下に黒い穴が空き、風神はその穴に入る。雷神、ごんたくれ、合成獣たちの所にも穴が広がり、吸い込まれて、穴はすぐに閉じる。土友が呟く。
「今のは志渡布の術……千歳姉妹もマスターしているのか……仕留め損なったな」
「まあ、大阪の街を守れたので良しとしましょうよ……」
「鈴鹿ちゃん、あの金銀銅の派手な機体の人にも挨拶しようや」
「そうですね、芙蓉さん。あの~ありがとうございました……きゃあ⁉」
鈴鹿と芙蓉は顔を覆う。モニターに青いフンドシ一丁の男が映し出されたからである。
「ど、どうかしたのか⁉」
「アンタは服を着なさいよ!」
殿水の叫び声が大阪の街に響く。
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