21
「いよいよ決勝か……」
大洋が宿舎の部屋で呟く。ドアをノックする音が聞こえる。
「大洋、入ってええか?」
隼子の声に大洋が答える。
「どうぞ」
「お邪魔するで」
隼子と閃が大洋の部屋に入ってくる。閃が椅子に腰かけて口を開く。
「早速だけど、決勝に向けての対策会議といこうか」
「その前に聞きたいことがあるんだが……」
「ん?」
「明日の決勝に勝つとどうなるんだ?」
「え? 優勝だよ」
「それは分かっている。その後のことだ」
「その後のこと……ああ~そういうことね」
大洋の言葉に閃がうんうんと頷く。隼子が尋ねる。
「なんや、どういうことやねん?」
「正確にはまだ決まっていないみたいだけど……東日本大会との優勝チームと対戦することになるんじゃないかな」
「え? 東日本大会、ホンマに開催出来るんか?」
「情勢が落ち着き次第、どうやら開催する方向で話が進んでいるみたいだけどね」
「ロボチャンにはかなりの金額が動くとはいっても、何ともたくましい話やな……」
「では勝てばいわゆる優勝決定戦に進めるというわけか」
大洋の問いに対し、閃は首を傾げる。
「実はその辺も未確定なんだよね、双方の優勝チーム以外にも西日本から数チーム、東日本からも数チーム出場させて、規模は例年よりは小さいけども一応の全国大会として開催しよう、っていう話も小耳に挟んだよ」
「ホンマかいな?」
「試合数が出来る限り多い方が貴重な実戦データなど、色々と得るものがあるからね」
閃が右手の親指と人差し指をくっつけ、残りの三本指を立ててみせる。
「なるほど、色々とな……」
隼子がため息交じりに頷く。
「……思惑はともかく、ここまで来たら勝ちたいところだな」
「それはそうやな」
大洋の言葉に隼子が同意する。
「では閃、会議を始めてくれ」
「了解。それじゃあ……」
閃が大洋の部屋に設置されているモニターに映像を表示させる。
♢
「ふう……」
日課のランニングを終えた幸村が格納庫へ戻ってきた。
「ご苦労様、精が出るわね」
「姉上?」
幸村に対し、伊織が声をかける。
「またちょっと時間がとれてね。大会期間中だから情報機器でのやりとりは出来ないけど、またここに戻ってくるって会社の人に聞いたから、激励しようと思って待っていたわ」
「そうでしたか」
「まずは決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます」
「武者修行の成果が出たわね」
「いや、成果があったかどうかと言えるのは……明日優勝してからですね」
幸村の返答に伊織が笑う。
「ははっ、確かに、少し気が早かったかしらね」
「ふふっ……」
「それで? 明日はどうかしら?」
「うちと電光石火、そして、沖縄の三つ巴になると見ています」
「沖縄の……琉球海洋大学の『シーサーウシュ』ね」
「ええ、そうです」
伊織の言葉に幸村が頷く。
「瀬戸内海で彼らを見たときもかなりのポテンシャルを感じたけど、まさかここまでやるとはね。正直驚いたわ」
「あの近接戦の強さは恐るべきものです。距離を取ろうとしても、高速移動を用いてその間合いを一瞬でなくしてしまう……実に厄介極まりないです」
「『縮地』ってやつね。対策は?」
「もちろん、無くはありません」
「流石ね」
「やってみないと分からない所はありますが……」
「電光石火については?」
「恐らく距離を取ってくるでしょうね」
「なるほど、射撃モードか飛行モードを主体にした戦い方をしてくるか……あの変形はかなり面倒じゃない?」
伊織の問いに幸村は首を振る。
「いいえ」
「そう? あの戦いぶりも結構厄介じゃない?」
「上手くかき回してくれれば、むしろ好都合というものです」
「そう……彼らは?」
「彼ら?」
「いや、越前ガラス工房所属の『TPOグラッスィーズ』よ」
「ああ……一応データには目を通しましたが、正直ここまで勝ち上がれたのが不思議なほどです。勿論油断は禁物ですが、そこまで警戒するほどではないかと……」
「そうね。今日の準決勝での勝利もエテルネル・インフィニのライフルが暴発したからですものね。警戒し過ぎるのも良くないか……」
幸村の答えに伊織も納得したように頷く。
♢
「あ……そこ……」
「ここかい?」
「そう、そこ……あ、いい……」
「うん、これでどうだい?」
「とってもいい……はっ! こ、こんなことしている場合じゃない!」
いつきが慌てて修羅に向き直る。修羅が両手をもみながら笑う。
「大分溜まっているね~山田ちゃん」
「誤解を招く言い方止めて下さい! ……確かにモニターとにらめっこですから、眼精疲労は蓄積されているとは思いますが……それより明日の決勝に向けての作戦会議です!」
「作戦なんて必要ないさ~」
「そういうわけには行きません!」
「大体作戦を立てても、俺は覚えられないよ」
「た、確かに、それはそうかも……」
「でしょ~? もう今日は寝ようよ~」
「疲れを取る為にも、早く睡眠を取るのも必要ですか……って、な、なんで一緒に寝るみたいな流れになっているんですか!」
いつきは顔を真っ赤にして声を上げる。それに対して修羅は苦笑する。
「勝手に変な意味で受け取らないでよ……マジに俺、もう眠いさ」
「明日また確認しますけど、対戦相手のデータにはざっと目を通しておいて下さい」
「う~ん……」
修羅は眠そうな目をこすりながら、いつきの持ってきた情報端末を操作する。
「長崎県代表、二辺工業所属の『電光石火』、三機合体のロボットです。近接戦闘、射撃、飛行モードと変形することが出来ます……恐らく、明日は射撃か飛行メインでくるかと」
「なんでよ?」
「……鹿児島県代表、高島津製作所所属の『鬼・極』がいるからです。この機体も我々のシーサーウシュと同様に近接戦闘を滅法得意としている機体ですから」
「接近戦は避けてくるだろうってわけね……」
いつきの説明に修羅は頷く。
「ええ」
「もう一機は?」
「え? 福井県代表、越前ガラス工房所属の『TPOグラッスィーズ』ですか?」
「そう……そのPTAプレッシャーズだかなんだか……」
「勿論、データはありますよ……二機の連携には多少目を見張るものがありますが……今大会や北信越大会の戦いぶりを見ても、そこまで用心するほどのものでは無いかと」
「そうかな~?」
「そうですよ、昨日の一回戦も今日の準決勝も相手がトラブルに見舞われて、ラッキーで勝ち上がったようなものです。大星さんも見たでしょう?」
「まあ、見たけどね……」
「それともなんですか? 格闘家特有のオーラみたいなものでも感じたんですか?」
いつきが笑う。
「いいや、特別そういうのは感じなかったけどね……」
「じゃあ良いじゃないですか」
「う~ん……」
修羅が頬杖をつきながらTPOグラッスィーズのデータをしばらく見つめる。
♢
「……決勝、試合開始!」
審判のアナウンスが試合会場に響き渡る。
「始まったな、フンドシも締め直した、準備は万全だ」
「そんな報告いらんねん」
「さてと、電光石火に合体しよう、大洋」
「分かった」
三機は合体し、電光石火となる。隼子がモニターを確認する。
「シーサーウシュも鬼・極も近い位置まできてるで」
「まあ、接近してくるのは予想通りだね。こちらにとっても向こうにとっても……」
隼子の言葉に閃は頷く。大洋が叫ぶ。
「その予想を裏切る!」
「!」
「⁉」
電光石火は近接戦闘モードから変形することなく、そのままの形態で、シーサーウシュや鬼・極のいる方向へ勢いよく突っ込んでいく。
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