「いかがいたしましょうか」
「艦の足並みを桜島と揃えましょう」
セバスティアンの問いにアレクサンドラが指示を出す。
「かしこまりました……上空に反応あり!」
「⁉」
ビバ!オレンジ号の上の何もない空間に紫色の穴のようなものが開き、そこからアルカヌムが姿を現す。アルカヌムはビバ!オレンジ号に攻撃を加えようと急降下する。
「させるか!」
「!」
「はっ!」
それを黒い影が防ぐ。テネブライである。二機は空中でサーベルを激しく打ち合わせる。
「テネブライ、ミマ=タカモトか、見かけないと思ったら……」
「虚を突かれる気分はどうだ⁉ シャイカ=ハーン!」
「ふっ、あまり良いものではないな!」
「うおっ!」
アルカヌムがテネブライを弾き飛ばす。テネブライに同乗するナーが驚く。
「なんやあいつ! 一撃一撃が重くて速いな!」
「ナー、これはどういうことだ⁉」
「う~ん、短期間でごっつ筋トレしたんかな~」
「真面目に聞いている!」
「冗談や、恐らくやけど……あの志渡布っちゅう奴が力を分け与えたとか言うてたやろ? その影響やで多分」
「相変わらず勘だけは鋭いようだな……ナー=ランべス」
シャイカが笑う。ナーが憤慨する。
「勘ちゃうわ! きちんとした現状分析や!」
「鍛えてもフェアリーだからな……」
「いや、自分も何訳分からんこと言うてんねん! フォローになってへんやん!」
美馬の言葉にナーが突っ込む。アルカヌムがサーベルを構え直す。
「仕組みは私にも分からないが、志渡布によって今の私はポテンシャルを存分に引き出されている……いくら貴様が救世主と言っても、止めることは出来んぞ……!」
「ぐおっ⁉」
一瞬でテネブライの懐に入ったアルカヌムがサーベルを振るう。予想以上のスピードに美馬は反応しきれず、攻撃を喰らってしまう。
「貴様との因縁もいい加減面倒だ……ここらでご退場願おう!」
「ア、アカン!」
「ぐっ!」
アルカヌムの振り下ろしたサーベルをテネブライはなんとか受け止める。
「しぶとい……な!」
「む!」
アルカヌムが頭部のバルカンを発射させる。至近距離でその射撃を受けたテネブライの頭部が損傷し、モニターが真っ暗になる。ナーが叫ぶ。
「メインモニターをやられた! サブモニターに切り替えな!」
「そんな隙は与えん!」
「……は!」
「なっ⁉」
アルカヌムが三度サーベルを振るうが、テネブライが驚異的な反応でその攻撃を躱す。
「か、躱せた! ど、どうやったんや、今の⁉」
「……」
「おい! 何黙ってんねん⁉」
「ちょっと静かにしていてくれ!」
「ん!」
美馬の叫びにナーは口をつぐむ。
「集中力の高まりを感じる……奴の居場所が分かるぞ!」
「今度こそ!」
「そこだ!『エレメンタルフルバースト』!」
「ぐわっ!」
テネブライの放った強烈な斬撃による衝撃波がアルカヌムを襲う。次の瞬間、テネブライのサブモニターが稼働する。ナーがモニターを確認する。
「やったか⁉ ……ちっ! 半壊させただけかいな!」
モニターには半身が損傷したアルカヌムが映っている。シャイカが忌々し気に呟く。
「まさか……奴もポテンシャルを解放したというのか? しかし一体どうやって? エレメンタルストライカーの機体同士での共鳴か? それとも……」
「……知らなかったのか? これが救世主の底力ってやつだ」
美馬が笑みを浮かべながら話す。シャイカが苦笑する。
「ひとつ勉強になった……ここは退かせてもらう」
空間に穴を発生させ、アルカヌムはそこに飛び込む。穴はすぐに消えてしまう。
「あ! 逃がしてもうたな……まあ、エレメンタルフルバーストを使うと負担がな……」
「ああ、すぐには満足に動けん……一旦ビバ!オレンジ号に着艦する……」
「テネブライ、本艦に着艦しました」
「厄介な敵を退けてくれたわ。流石は異世界を救った救世主殿ね」
アレクサンドラが満足気に頷く。セバスティアンが重ねて報告する。
「各地の機体もこちらに戻りつつあります」
「皆、それぞれ敵を退けたのね、頼りになるわ」
「ちっ……しゃあないなあ、あんまり荒っぽいことはしたくなかったんやけど……」
「⁉」
戦場に志渡布の声が響く。
「大富岳、起動!」
「! 大富岳が機体の向きを変えます!」
セバスティアンの言葉通り、大富岳の巨大な船体が横向きから縦向きになる。
「丸い方が上に来たわね……あの姿勢は確か?」
「膨大なエネルギーの上昇を確認! ビームの類を発射する模様です!」
「くっ! 狙いはこっちと桜島ってこと⁉」
「……慌てないで、サーニャ」
ビバ!オレンジ号のモニターに伊織が映る。
「伊織⁉ そうは言ってもね!」
「向こうの発射までまだわずかに時間がある。その前に桜島とビバ!オレンジ号、両艦の主砲を直撃させるのよ!」
「あ、あんな馬鹿デカい艦を沈黙させられるの⁉」
「計算上はね……データを送るわ」
送られてきたデータに目を通したアレクサンドラは即座に叫ぶ。
「いや、これはこちらのエネルギーが150%の場合でしょ⁉ エネルギーが足りないわ!」
「それを今から充填しま~す♪」
「ユエ! 戻ったのね! って、なにその機体⁉」
アレクサンドラはモニターに映った金青白の見慣れない機体に驚く。
「これは光風霽月だ!」
「その声はご主人様⁉ それに乗っているの⁉ なんなのその機体は⁉」
「知らん! 気がついたらこうなった!」
「そ、そう……」
「とにかくありったけのエネルギーを注ぎ込むぞ!」
「言い方が気になるな! ちょっと黙っていて……!」
ユエが大洋に注意し、補給作業を行う。
「高島津艦長! 柑橘参号戻りました! 只今、補給を行います!」
「ポンカン! お願い!」
「ちょっと足りないかな……ミカン、イヨカンも協力して!」
「「了解!」」
「……補給作業完了!」
「こちらも完了です!」
ユエとポンカンが同時に声を上げる。モニターを確認したアレクサンドラが頷く。
「よし! これならフルパワーで主砲を放てるわ! 伊織!」
「こちらも大丈夫よ!」
「セバスティアン! 砲撃準備!」
「主砲発射準備!」
アレクサンドラと伊織が同時に指示を出す。
「……距離・方向OK、角度調整完了、エネルギー充填完了でございます」
「主砲発射準備完了しました!」
セバスティアンと桜島のブリッジクルーが同時に報告する。
「よし! 撃てえぇぇぇ‼」
「主砲、撃てえ――‼」
二人の揃った掛け声により、凄まじいエネルギーの奔流が二筋、大富岳に向けて放たれる。
「むう⁉」
大富岳が砲撃をまともに喰らう。セバスティアンが報告する。
「大富岳、エネルギーの低下を確認! ビームの発射を中止! 動きが止まりました!」
「ロボット部隊を補給が済み次第順次発艦させて! 大富岳を一気に制圧する!」
「かしこまりました! パイロットの皆さん! 発艦をお願いします!」
「了解です!」
「ジュンジュン、お願いね~」
石火に乗った状態の電がカタパルトにつく。隼子が閃に声をかける。
「オーセン、振り落とされんなや!」
石火が勢いよく発艦する。電に乗る閃が冷静に戦況を分析する。
「機妖の群れもあらかた片付いた……このまま大富岳に取り付ける!」
「そうはさせんで! 出番や、百鬼夜行!」
「⁉ まだこいつがいたか!」
「!」
百鬼夜行がジャンプして、石火の高度まで達する。隼子が慌てる。
「くっ、ぶつかる⁉」
「そのまま突っ込め、隼子!」
隼子は隣を飛行する光風霽月を見て驚く。
「大洋か⁉ なんやねん、その機体は⁉」
「これは光風霽月だ!」
「説明になってへんねん!」
「ユエとタイヤンの機体と合体したの? 設計思想が似通っているとは思ったけど……」
閃が冷静に呟く。大洋が満足気に頷く。
「つまりはそういうことだ!」
「なにがつまりやねん! こっちが察しただけやろ!」
「前を見ろ! 百鬼夜行が迫ってくるぞ!」
タイヤンが叫ぶ。隼子がパニックになる。
「ど、どないすんねん!」
「一点突破よ! オーセン! タイミング合わせてね!」
「! 了解!」
ユエが口を開く。再び何かを察した閃が頷く。
「大洋、光龍刀で攻撃よ!」
「ああ! 『ぶった切り』!」
「‼」
「合体解除!」
「合体!」
光風霽月の攻撃が百鬼夜行に当たった瞬間、光風霽月は合体を解除する。次の瞬間、光は電と石火と合体し、電光石火となる。閃が間髪入れす叫ぶ。
「大洋!」
「『大袈裟斬り』!」
「ウオオオ‼」
電光石火の振るった刀を受け、百鬼夜行は落下する。ユエが声を上げる。
「『瞬間連撃』成功よ!」
「無茶をするな……」
タイヤンが呆れ気味に呟く。
「なるほど……リーチの長い刀でまず攻撃し、間髪入れず次の攻撃を加える。パワーを集中させた、まさに一点突破ってわけか」
閃が頷く。大洋が声を上げる。
「要するにそういうことだ!」
「嘘つけ! アンタは絶対分かってへんかったやろ!」
叫ぶ隼子をよそに、閃がユエに尋ねる。
「電光石火の合体機能が戻っているなんて、よく分かったね?」
「私もギリギリで気が付いたのよ……正直一か八かだったわ」
「一か八かだったのか⁉ 本当に無茶をするな……」
タイヤンが頭を抱える。閃がモニターを確認する。
「百鬼夜行は……黒い穴に消えた! 逃がしたか……」
「とりあえずは大富岳制圧に集中だ!」
「そうはさせへん!」
「⁉」
巨大な九尾の狐が大富岳の前に再び現れる。志渡布の声が響く。
「力は戻った……やはり僕自ら、君らに鉄槌を下してやるとしよう……」
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