「叡山方面からの狙撃が止んだな……愛賀はん、やられたか?」
機法師改を操縦する鳳凰院胤翔が呟く。
「……まあええ、ある程度は戦線をかき乱してくれたからな……後はなんとでもなる」
鳳凰院は自らの機体の前を進む、多くの機妖を見て頷く。
「志渡布はんは多くの機妖を拙僧に預けてくれた。さらに特殊な機妖まで……」
鳳凰院が視線を移すと、他とは違う三体の機妖が機法師改を囲むように移動している。
「飛行タイプが『機妖・甲型』、素早いタイプが『機妖・乙型』、一回りサイズが大きいのが『機妖・丙型』やったかな? まあ、なんでもええわ……ここが主力部隊っちゅうこっちゃ」
鳳凰院は笑みを浮かべる。
「一番厄介なFtoVは傭兵の姉ちゃんたちが抑えてくれる言うてたしな。正直勝てるとは思えんのやが、裏の世界ではそれなりに名の知れた『極悪なお姉さん』たちや。多少の足止めくらいはしてくれるやろ……となると、拙僧はさっさとここを突破するだけや……⁉」
前を進む機妖の集団が次々と消滅していく。前方に煙が巻き起こり、視界が不良になる。
「な、なんや⁉」
鳳凰院の耳に女性たちの会話が聞こえてくる。
「白い頭部に、黒い胴体の機体……あれは?」
「他とは違うでござるな……」
「あれはロボチャン奈良代表の機法師改よ! 真大和国側についたの!」
「詳しいね~未来」
「頼りになるでござる」
「ってか、明日香姉も次代姉もそれくらいの情報、しっかり頭に入れておきなさいよ!」
女性たちの会話を聞き、鳳凰院が声を上げる。
「明日香、次代、未来……大毛利三姉妹! 『フリートゥモロークラブ』か⁉」
「……名乗る前に名前言われちゃったよ」
「いまひとつ恰好がつかないでござるな」
「そんなのどうでも良いから! ほら! さっさと片付けるわよ!」
煙が晴れ、紅色主体の巨大ロボットがその姿を現す。鳳凰院が舌打ちする。
「トライ・スレイヤー! FtoVと並び日本防衛の要! こないなとこで会うとは……」
「ふむ……データによると、お坊さんみたいだね?」
トライ・スレイヤーから声がする。答える義務もないが、鳳凰院が応じる。
「……それがどないしたんや?」
「おっ、対話の意志あり?」
「高名なフリートゥモロークラブのリーダー、大毛利明日香はんとお話し出来る機会もそうそうないからな」
「いや~高名って、そんな本当のことを言われても……」
「そうやってすぐ調子に乗らない!」
「……で、なにか拙僧に用かいな」
「えっと……なんだっけ?」
明日香の間の抜けた様子に未来がため息をつく。
「はあ……もういいわ、私が代わりに尋ねる。鳳凰院胤翔、貴方は何故に真大和国、志渡布雨暗に与するの?」
「……おもろそうやからかな」
「は?」
「志渡布はんの国盗りに興味が湧いたんや」
「そ、そんな理由で、お坊さんが騒乱に加担するというの?」
「坊主いうても筋金入りの不良坊主やからな」
鳳凰院が自嘲気味に笑う。
「だ、だからといって!」
「若いころはそれなりの志を持って、修行に励んだもんや……せやけど、明るい展望がさっぱり抱けなくてな……虚しくなって、寺を飛び出した。なんとなく寺に戻って、ロボチャンに参加してみたら、こういうことになった……これも定めというやつやな」
「な、何を言っているの⁉」
「特に意味は無いで、単なる時間稼ぎや」
「⁉」
「……いつの間にか囲まれたでござるな」
次代の言葉通りトライ・スレイヤーの周囲を無数の機妖が包囲している。鳳凰院が笑う。
「他の地点にいた機妖を一気にこの地点に集結させた! この数はなんぼトライ・スレイヤーでも難儀するやろ!」
「くっ……真面目に話を聞いて損したわ!」
「無駄に長い話をするのは得意やねん! さあ、やってしまえ、機妖ども!」
「ちっ! 明日香姉!」
「ん? やってもいいのか?」
「いいわよ!」
「そらっ!」
「なっ⁉」
トライ・スレイヤーの振るった薙刀が無数の機妖を文字通り薙ぎ倒していく。
「その調子よ! このままあの不良坊主も懲らしめてやって!」
「くっ! 任せたで!」
「むっ⁉」
鳳凰院の指示に従った三機の特殊な機妖がトライ・スレイヤーの進撃を止める。
「どうやら力・速度など、他の有象無象とは一味違うようでござるな!」
「気付いたところでもう遅い! 丙型! パワーで圧倒や!」
「うおっ!」
トライ・スレイヤーの巨体がひっくり返される。明日香が呟く。
「う~ん、未来にバトンタッチ~」
トライ・スレイヤーのカラーリングが水色主体になる。鳳凰院が声を上げる。
「『スレイヤー・マーレ』か! 海中戦に長けた形態! 陸地ではかえって不利やろ!」
「……ご心配頂いてありがとう、でも、ちょうどいいハンデよ! 『海割』!」
スレイヤー・マーレの放った拳が丙型の機体を貫く。
「ぐっ⁉ 乙型、スピード勝負や!」
「……次代姉、任せた。バトンタッチよ」
トライ・スレイヤーのカラーリングが橙色主体になる。次代が淡々と謎の口上を述べる。
「……別に恨みなどはないが、希望とあらば確かに仕留める、成敗アワーの時間がやって参りました……『空蝉』!」
「! 乙型が真っ二つに……『スレイヤー・テッラ』……なんちゅう剣速や」
「終わりでござるかな?」
「まだや! 甲型! 空から仕留めろ!」
「飛行型でござるか。姉上、頼みます。バトンタッチでござる」
トライ・スレイヤーのカラーリングが紅色主体に戻る。
「空はむしろこっちの庭よ……『鎌鼬』!」
「! 『スレイヤー・カエルム』……空中戦が得意な形態やったか、迂闊やったわ……」
「さて……もう終わりでいいかしらね?」
「アホ抜かせ! まだ拙僧がおるわ!」
「でもその機体、空飛べないでしょ?」
「やりようなんていくらでもあるわ! 『光輪波』!」
「おっと⁉」
機法師改の持つ錫杖の先端からレーザーが放たれ、スレイヤー・カエルムの肩部に当たる。
「デカい図体しとるから当てやすいわ! どんどんいくで!」
「レーザーか、厄介だな……『鎌鼬乱撃』!」
「ぬおっ⁉」
スレイヤー・カエルムが薙刀を振り回し、衝撃波を多数発生させる。機法師改は受け止めきれず、その場に崩れ落ちるが、地面に広がった黒い穴に吸い込まれていく。
「あ、逃がした? まあいいか、え~と……悪はアタシたちトライスレイヤーが無事倒しました……それじゃあ、平和な明日、また来てくれるかな~? ……そんなことはないか!」
「決め台詞勝手に叫んで、自分で否定しないでよ! ……とにかく味方と合流しましょう」
トライ・スレイヤーは機体を反転させ、京都の中心部に戻る。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!