「ふん……」
大富岳のブリッジで志渡布が椅子に座ってふんぞり返る。
「申し訳ない……」
金が頭を下げる。
「ん? 何がです?」
「力を分け与えてもらったのにあの体たらくだったからだ……」
「ああ……まあ、そういうこともあるでしょう、金角と銀角は回収したやないですか。とりあえずはそれで良しとしましょうや……」
「これからどうする?」
銀が尋ねる。
「戦力もそうやけど……人員を補充せなあきませんね。これだけデカい艦やのにクルーの大半が僕の式神ですって……僕の体が流石に保ちませんわ」
「人員補充か、俺たちが動けば良いんだな?」
「それももちろんお願いしたいところですけど……僕も僕で動きます。当てがあるので」
「また別行動になるか。それはそれとして……シャイカ=ハーンには何らかの処罰を与えるべきではないか?」
銀の言葉に志渡布が苦笑する。
「処罰って……あくまでも彼女とは協力関係ですからね……それに異世界との繋がりは残しておきたいっちゅうのが本音です。まあ、もうしばらく泳がせときましょう。ちょっと疲れました……少し休ませてもらいます……」
志渡布がブリッジから出ていく。
♢
「いきなりなんどすか? 頭なんか下げて……」
大富岳の廊下で雷が怪訝そうな顔を愛賀に向ける。
「……ロボチャンの時、気の流れとかなんとか言うてたやろ? あのことについて詳しく教えて欲しいんや」
「なんの為に?」
「狙撃手としてもう一段階上に行くためや」
「こないなこと言うてはりますけど? どうしますか、風姉さま?」
雷は風に尋ねる。風は愛賀に背を向けたまま答える。
「その気概は大変結構……せやけど、素人はんにとってはちんぷんかんぷんなお話やと思いますよ? 雲を掴むようなお話かも……」
「必ず掴んでみせる! 相手には魔法使いもおんねん、こっちもオカルトで勝負や」
「オカルトって……そういうたら……雷? この艦の食堂はどうしてなかなかメニューが充実してるなあ?」
「はい、そうですね。どこから調達してるのか、いまいち不明ですけど……」
「高級スイーツが食べたい気分やわ……誰ぞ、うちらにご馳走してくれへんかな~」
「! ああ、それくらいやったら御安い御用や!」
「ほな、食堂に参りましょうか」
風は微笑みを浮かべて歩き出す。
♢
「はあ~」
格納庫で機体のチェックをしながら、海江田が大きなため息をつく。
「こっちの気も滅入るからやめろ……」
作業をしながら水狩田が呟く。
「いや~だってさ~あの天下のザ・トルーパーズに『この借りはいずれ返す!』とか啖呵切っちゃったんだよ? 我ながらテンション上がってとんでもないこと言っちゃったな……」
海江田が頭を抱える。
「まだこの機体の奥の手が残っているだろう……」
「それはそうなんだけどね~もう一つ保険が欲しいところだね」
「ならばあそこに行ってみたらどうだ? 裏社会ならではのコネがあるだろう?」
「あそこか……確かに良いかもね」
水狩田の提案に海江田がうんうんと頷く。
♢
「頼む! 家庭が円満になる方法を教えてくれ!」
食堂で雷蔵が鳳凰院に両手を合わせて懇願する。鳳凰院が呆れる。
「おたくの家庭は色々と事情が複雑でなあ……拙僧にも扱いきれへんわ……」
「それならば、我が慈英賀流の今後を占ってくれないか!」
「なんでそうなんねん、祈祷ならともかく占いって……それこそ明石屋はんに頼みなはれ」
「それを彼女は有料だと言うんだ! マイナー流派の厳しい懐事情も知らずに!」
「そんなん知らんわ……はあ、志渡布はんに頼まれ事されてるから、もう行くで」
鳳凰院が席を立つ。
♢
「ん?」
「……」
廊下を歩く浪漫が意外な人物を見かける。
(あれは百鬼夜行の鬼武小四郎? 艦内を出歩いとるのは初めて見たな……)
浪漫が静かに鬼武の後をつけていく。
「……」
鬼武はある部屋に入っていく。浪漫もそれに続こうとするがドアがロックされてしまう。
(ちっ、入れへんのかい……何の部屋や? 大富岳……今更やけど色々と謎が多い艦やで)
閉じられたドアを見つめながら、浪漫が腕を組む。
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