「何を企んでいるかは知らないけど、そこまでよ!」
「きゃあ⁉」
ユエが拳銃を構え、女性たちは悲鳴を上げてその場から去る。警官が困惑する。
「な、なっ⁉」
「そこのおまわりさん、これ絡みの案件だから、ちょっと下がっていてくれる?」
ユエが拳銃を片手に腕章をちらつかせる。
「そ、それはGofE⁉ し、失礼します!」
警官が敬礼をしてその場を去る。ユエが笑みを浮かべる。銀が声を上げる。
「包帯! ガムテ!」
「おうよ!」
「!」
「当たるかい!」
「はっ⁉ 銃弾をかわす⁉」
「極限まで重量を減らしたワイらにそんなもんは当たらん!」
「ちっ⁉」
包帯とガムテがユエとの距離を詰める。
「大人しゅうしてもらうで!」
「はっ!」
「がはっ⁉」
「かなりの素早さだが、目で追えんほどではないな……」
タイヤンがパンチとキックを繰り出し、包帯とガムテを沈める。ユエが声を上げる。
「タイヤン、ナイス!」
「さっさとあの眼鏡どもを制圧しろ!」
「ええ!」
ユエが改めて、銀たちに銃を向ける。銀が舌打ちする。
「金、まだか⁉」
「もう少しだ……!」
「だからそうはさせないっての!」
「波!」
「むう⁉」
ユエの持っていた拳銃が紙に包まれ、銃口部分をひし曲げられる。
「お子ちゃまのおもちゃにしては危ないもんを持っとるな……」
「明石家浪漫! なんの手品よ!」
「手品言うな! れっきとした術や! 術!」
「くっ……」
「この子らの相手はうちがしておく……早よ、用事を済ましなはれ」
浪漫が前に進み出て、ユエたちと対峙する。ユエが舌打ちする。
「ちっ、妙な術で銃が使えない……」
「ならば接近するまでだ!」
「甘いで!」
「ぐはっ⁉」
浪漫に飛びかかろうとしたタイヤンだが、空で印を結んだ浪漫が発した強い突風に吹き飛ばされてしまう。浪漫が笑みを浮かべる。
「接近戦への対策をしてないわけないやろう……」
「むう……」
「……来ないならこっちから行くで!」
「そうはさせるかよ!」
「む!」
軍服を着た男女がそこに駆け付ける。ユエがぼやく。
「ちょっと遅いご到着ね……」
「悪りい、迷った!」
ボサボサした茶髪の女性が元気よく答える。浪漫が怪訝な顔になる。
「何者や?」
「太郎!」
「は、はい! 自分はGofE、極東地区第十三特戦隊隊長の赤目太郎少尉であります! 京都で不穏な活動をしている貴方たちを逮捕させていただきます!」
太郎と呼ばれたフードを被った小柄な男性が声を上げる。浪漫が首を傾げる。
「第十三特戦隊? 初耳やな」
「それじゃあ、これを機会に覚えて帰りやがれ! オレは第十三特戦隊特攻隊長、檜玲央奈だ! 階級は伍長。ガンガン派手にぶっ飛ばしていくんで、そこんとこヨロシク!」
「バカか、帰らせたらダメだろう……」
反対方向から二人の女性が現れる。
「……そちらのお嬢さん方も第十三特戦隊かいな?」
「ああ、自分は第十三特戦隊遊撃隊長、山牙ウルリケ。階級は軍曹だ……」
ウルリケと名乗った細身の女性はニット帽を被っている。白髪交じりの前髪を垂らし、左眼を隠している。
「最後はミーか! ミーは第十三特戦隊親衛隊長、波江ベアトリクスだ! 階級は曹長!」
ベアトリクスと名乗った一際大柄な女性は軍服の上着を腰に巻いており、黒のタンクトップ姿である。麦わら帽子を被っており、短い金髪がわずかにのぞく。銀が慌てる。
「は、挟まれたぞ!」
「慌てることはあらへん……」
「オレら、通称『奇異兵隊』がお前らの企みを挫いてやるぜ!」
玲央奈が声を上げ、四人が浪漫たちに飛びかかろうとする。浪漫が笑う。
「はっ、奇異兵隊? そのいで立ちは確かに奇異そのものやな」
「言ってくれるじゃねえか!」
「雑魚がどれだけ増えようが一緒や!」
浪漫が懐から紙を取り出して玲央奈たちに向かって投げつける。紙は先端を鋭く尖らせ、玲央奈たちに向かって飛ぶ。
「はんっ!」
「なっ⁉ か、かわしたやと⁉」
「遅えんだよ!」
「ぎゃん!」
玲央奈の右ストレートが浪漫の顔面を捉え、浪漫は後方に吹っ飛ぶ。玲央奈が声を上げる。
「手ごたえあり!」
「……な、殴りよったな! アイドルとしても活動しているうちの大事な顔を!」
浪漫が左頬を抑えながら半身を起こす。玲央奈が感心する。
「へえ……案外タフだな」
「ボサボサ頭! アンタは許さん!」
「ボサボサ言うな! 無造作と言え!」
「玲央奈さん、そこはどうでもいいでしょう!」
「いいや、太郎、大事なとこだぜ!」
「ぶっ潰したる!」
「落ち着け、明石家! 金!」
「ああ、準備は出来た!」
金が小瓶の水を垂らし終えると、紫色の裂け目のようなものが現れる。ウルリケが叫ぶ。
「な、なんだ⁉」
「……世界の裂け目だ」
「ホワッツ⁉」
金の言葉にベアトリクスが頭を抱える。裂け目は徐々に大きくなり、そこから刀を持った侍が大勢なだれ込んでくる。玲央奈が驚く。
「な、なんだよ⁉」
「ワーオ! ジャパニーズサムライね!」
「トリクシー! 喜んでいる場合か! うおっ!」
「こ、このお侍さんたち、攻撃してきます!」
ウルリケと太郎が戸惑いながら攻撃をかわす。ユエが尋ねる。
「太郎ちゃん! この方々はなんなの⁉ 映画村のエキストラか何か?」
「ち、違うと思います!」
「んなもん直接聞けば良いんだよ! アンタらなにもんだ⁉」
「……!」
侍の一人が玲央奈に斬りかかる。玲央奈はなんとかかわす。
「うおっ! 問答無用かよ!」
「成功したようだな……」
「銀さん金さん、貴方たち、何を呼び寄せたのよ⁉」
ユエの問いに銀が笑う。
「答える必要はない……」
「並行世界の日本の侍たちだ……」
「って、金⁉ 何を教えているんだ⁉」
金の反応に銀が驚く。ユエが首を捻る。
「並行世界ですって?」
「『こうなっていたかもしれない』日本から召喚した……」
「なるほど、侍の時代がまだ終わっていない日本からのお客様ということね!」
「そういうことだ」
「これは奴の差し金ということ?」
「ああ、そうだ。こちらには手駒が圧倒的に足りないからな……」
ユエの問いに金は淡々と答える。銀が首を傾げる。
「そ、そんなことまで言って良かったのか?」
「言うなとは言われていない……明石家を連れて去るぞ。ついでに包帯とガムテも起こせ」
「あ、ああ……」
「待ちなさい! くっ⁉」
裂け目から侍たちが次々と飛び出し、ユエたちを包囲する。玲央奈が舌打ちする。
「これは……やべえかもな……!」
「はっ!」
浅葱色のだんだら羽織を着た女性が二人、侍たちを蹴り倒す。
「……海藤君、これはどういう状況かね?」
黒いポニーテールの女性が、紫がかった髪色のショートボブの女性に尋ねる。
「……正直分かりかねるところも多いですが……不逞浪士が京の町で暴れておりますね」
「そうか……ならば、我々『真誠組』の出番というわけだな」
ポニーテールの女性がゆっくりと刀を抜く。
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