18A
「……とりあえず、大体のクルーとの顔合わせは済みましたね」
「すみません……高島津艦長自らご案内頂いて……」
桜島の艦内通路で、大洋は伊織に頭を下げる。
「ああ、気にしないで下さい。私も皆の働きぶりをチェックする必要があったので……もっとも皆、真面目に仕事に取り組んでくれていますが」
伊織は微笑を浮かべる。二人は歩きながら会話を続ける。
「しかし、かなりクルーが増えましたね」
「地元の鹿児島だけでなく、文字通り九州中を駆け回って人を集めました。高知や、先日寄った呉でも経験豊富な人材が加わってくれたのです。ですが……」
「……パイロットが不足気味ということでしたね」
大洋の言葉に伊織が頷く。
「……ブリッジクルー、エンジニア、艦内スタッフなどはある程度充実しました。しかし、肝心の機体やそのパイロットが……質はともかくとして、量がまだまだ足りません。桜島単艦でもそれなりには戦えますが……ですから大洋さん、貴方が一時的にとはいえ加わって下さって心強い限りです」
「……期待に沿えるように精一杯努めます。一肌脱ぎます」
「あ、ありがとうございます。そ、そのお気持ちだけで十分です。貴方の場合は文字通り本当にお脱ぎになってしまいますからね……」
「……ひょっとしてマズかったですか?」
「マズくないと思っていたのですか?」
「多少の例外はあれど……味方の士気向上に繋がっていたかと思っていたのですが……」
「ず、随分とまた前向きな思考ですね……話は変わりますが、サーニャ、アレクサンドラさんは貴方がこの艦に合流するのを少し嫌がっておられましたね?」
「……まあ、新婚夫婦としては出来る限り一緒にいたいと考えるのは地球人でも異星人でも一緒なのでしょうね」
「なるほどね……って、はあっ⁉ し、新婚⁉ ご、ご結婚なさったのですか⁉」
伊織が思わず立ち止まる。
「い、いや、向こうが暴走しているようなものですが……」
大洋が事情を説明しようとするが、伊織の耳には届いていない。
「あ、貴方はほんのひと月前、鹿児島のホテルで四人の女性を自分の部屋に連れ込んでいたではありませんか!」
「あ、ああ、あれはですね、なんと言いますか……」
大洋もそのことを思い出す。高島津製作所に招待され、鹿児島湾で行われた親善試合に臨むにあたり、隼子や閃らと作戦会議を行ったのである。そのことをどう説明したものかと考えを巡らす。
「なんなのですか?」
「ひ、秘密の打ち合わせと言うか……」
「ひ、秘め事⁉」
「い、いや、そんなこと言ってないですよ⁉」
「四人もの女性を誑かした上に、何も知らない異星人の方と婚姻関係を結んでしまうとは……は、破廉恥ですわ!」
伊織がその場から走り去ってしまう。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 行ってしまった……」
通路に一人残された大洋は頭を掻いて呟く。
(後はパイロットの連中との顔合わせだったか……確かこの先のラウンジルームに皆集まっていると言っていたな。高島津さんの誤解も解きたいところだが、今は挨拶まわりの方を優先するか……)
大洋は再び歩き出し、ラウンジルームに入る。
「おおっ! 大洋くん、久々やなあ!」
部屋に入ってきた大洋を見て、恰幅の良い中年の人物が歩み寄ってくる。
「増子さん! お久しぶりです」
この人物は増子益子、大分県にある小堀工業が開発したロボット、『卓越』のメインパイロットを務める女性である。卓越はロボチャン九州大会一回戦で、大洋たちと戦った。
(相変わらずおじさんかおばさんかよく分からない風貌をしていらっしゃる……)
大洋が失礼過ぎることを考えていると、背後からいきなり叫び声がする。
「多・田・野で~~~~~~~~~~~す!」
「⁉」
大洋が驚いて振り返ると、そこには五分刈り頭の男性が立っていた。
「多田野くんか!」
「はい、お久しぶりですぅ⁉」
突然、五分刈り男が悶絶しながらしゃがみ込む。その後ろに立つ黒髪ロングの女性に尻を思い切り蹴られた為である。
「いきなり奇声ば発するな、みっともない……」
「す、すみません、キックさん……ご指導ありがとうございます……」
「だから、アタシの名前は菊じゃ。小さい『ッ』を付けんな……」
「キックさん……じゃなくて梅原さんもお久しぶりです」
「ふん、久しぶり言うても一か月くらいじゃろうが……」
この二人組は、男性が多田野一瞬、女性が梅原菊と言い、宮崎県の大野田エンジニアリングが開発したロボット、『ダークホース』のパイロットである。大洋たちとはロボチャン九州大会の二回戦で争った。
(梅原さんに蹴られて喜ぶ多田野くん、歪んだ関係は相変わらずのようだな)
「……なにか失礼なことを考えてちょるやろ?」
梅原の問いに大洋は話題を変える。
「み、皆さん、桜島にそのまま乗艦していたんですね」
「そうたい! 出向扱いじゃ。元の会社としても貴重な実戦データが取れるし、何よりギャランティーも良いから、家計も助かるたい!」
「か、家計ですか……」
「あ、あの~」
一人の青年が話しかけてくる。大洋が首を傾げる。
「君は……誰だ?」
「いや、だから俺っすよ! 『卓越』のサブパイロットの曽我部っすよ! なんで覚えてないんすか⁉」
「……すまん!」
「いや、謝られても⁉」
「はっ⁉ そちらにいるのは、佐賀の守り神、『サガンティス』と北九州の暴れん坊、『リベンジオブコジロー』のパイロットのお二人⁉ その節は大変お世話になりました!」
「なんで、大会で戦っていない相手のことは覚えているんすか⁉」
「奴邪国騒動の時にともに戦った戦友だ、覚えていないわけがない。ちょっと失礼……」
「俺もともに戦ったんすけど⁉」
その場から去る大洋の背中に曽我部の叫びが虚しく響く。
(……さてと、大体挨拶は済んだか?)
「こんにちは!」
「うおっ! き、君たちは……?」
大洋の前に髪の毛を蜜柑色にした小柄な三人組の女の子たちがちょこんと並んでいる。
「挨拶よろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます! それじゃあ……」
「ミカンです!」
「イヨカンです!」
「ポンカンです! 三人揃って……」
「「「『カントリオ娘』です!」」」
三人が両手で丸を作り、胸の前に突き出すという揃いのポーズを決める。
「お、おお……俺は疾風大洋だ、よろしく……」
あっけにとられながらも大洋は挨拶を返す。
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