「現在、大阪と奈良の境界付近です」
『ビバ!オレンジ』のブリッジからセバスティアンの落ち着いた声が各機に届く。
「もうすぐ接敵するわね」
「アレクサンドラ氏……GofEへの協力、あらためて感謝します」
小金谷が丁寧な口調でアレクサンドラに謝意を述べる。
「地域の平和と安定に貢献するのは万星共通の認識、至極当然のことですから」
「……本音は如何です?」
「お、おい、殿水……」
「……地球圏連合と協力関係を深めておけば今後とも色々助かる……と答えれば満足?」
アレクサンドラは不敵な笑みを浮かべて答える。
「はははっ、素直なお嬢様ね、気に入ったわ」
「お前なあ……」
笑う殿水に小金谷が顔をしかめる。ビバオレンジには聞こえないように火東が話す。
「あのお嬢様、アンタのお気に入りのフンドシ君と婚姻関係らしいわよ」
「は? 疾風大洋と? なにがどうなってそういうことになるのよ?」
「何でもお姫様抱っこをしたのが決め手だったとか……」
「なにそれ、意味が分からないんだけど……」
「こちらのモニターでも『百鬼夜行』と『TPOグラッスィーズ』の二機を確認……」
土友が冷静に告げる。小金谷が首を傾げる。
「こんな山間部で何をしていやがる?」
「山菜狩りかな?」
「義一さんみたいに食い意地張ってないから……恐らく計画の一部でしょ。リーダー?」
殿水の問いに小金谷が頷く。
「攻撃を仕掛ける! 無力化させて拘束しろ!」
『FtoV』が急加速し、百鬼夜行たちに接近する。
「!」
「なんだ⁉」
FtoVの接近に気が付いた百鬼夜行はその右手をかざすと、地中から多数の黒い物体が姿を現す。小金谷が驚き、殿水が怪訝そうにそれを見つめる。
「何あれ? 怪獣?」
「シルエットが真っ黒ね、どう見る?」
火東が土友に尋ねる。土友は少し間を置いてから答える。
「……あのような地底怪獣はデータに一切該当しなかった。推測だが……百鬼夜行が生み出した、もしくは呼び寄せたものだろう」
火東に土友が答える。今度は殿水が尋ねる。
「呼び寄せたってどこからよ?」
「さあな。百鬼夜行だけに、この世ではない場所からかもな」
「それって……あの世ってこと? 怖いなあ~」
木片が呑気な様子のまま怖がる。黒い物体たちは一斉に右手のようなものをかざすと、そこから黒い球体が次々とFtoVに向けて発射される。
「ぐっ⁉」
球体をいくつか喰らったFtoVは一旦地上に降り立つ。土友が分析する。
「どうやら砲弾のようなものと思われる。一発一発の威力はさほどでもないが、このまま喰らい続けると流石にマズい……厄介だな」
「……正体不明の敵が多数出現、FtoVが集中砲撃を受けています」
「各員出撃よ!」
セバスティアンの報告を受け、アレクサンドラが指示を飛ばす。カタパルトから次々とロボットが飛び立つ。その間にFtoVは黒い物体をミサイルで撃破する。黒い物体はその場で霧消する。それを見て小金谷が力強く頷く。
「爆破の恐れはないか……しかも一体一体の耐久力は大したことはないぞ!」
「それじゃあ、私たちは本命狙いで後は援軍に任せるとしましょうか……ってええっ⁉」
空を映したモニターを見た殿水が驚きの声を上げる。火東が尋ねる。
「どうしたのよ?」
「そ、空! あのオールバックお兄さんとリス頭の子、生身で飛び降りてきたわよ⁉」
「「リェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン!」」
不思議な光がオールバックお兄さん日下部和志とリス頭の妖精?カナメを包み込み、フリフリのフリルや可愛らしいリボンがいくつもついたピンク色の人型ロボットが現れる。
「な、なんなの⁉」
「……魔法少女ロボ、『仁尽』! キュートに参上! 良い子の皆、よろしくね!」
仁尽とそれに搭乗する日下部たちが揃って無駄に可愛らしいポーズを決める。
「へ、変なの出てきちゃった⁉」
殿水が正直過ぎる感想を叫ぶ。小金谷がなんとも言えない表情で呟く。
「なかなか良い面構えをしていやがるから連れてきたんだが……」
「うおりゃあ!」
仁尽が拳を振り回し、周囲の黒い物体を次々と撃破していく。火東が驚く。
「まさかの武闘派⁉」
「だ、だから魔法のステッキがあるんだから、それを使ってよ~」
「カバチタレんな! 男は黙って素手喧嘩じゃい!」
カナメの要望を無視し、仁尽がその剛腕を振るう。
「はははっ! これは負けていられないさ~」
地上に降り立った大星修羅と山田いつきの搭乗する『シーサーウシュ』と高島津幸村の駆る『鬼・極』も鋭い攻撃を次々と繰り出し、黒い物体を撃破していく。土友が呼び掛ける。
「連れてきておいてなんだが、決勝から間がない。シーサーウシュらはあまり無理するな」
「そうは言ってもね~あんな喧嘩見せられた日には……」
「血が騒いでしょうがないでごわす!」
「ああ、根っからの戦闘民族……」
どこか喜々とした様子すら伺える修羅と幸村を見て、いつきは頭を抱える。
「ちっ、出遅れちまったぜ!」
四足歩行のライオン型ロボット、『ストロングライオン』に乗る檜玲央奈伍長が悔しがる。
「玲央奈さん、味方同士で変に対抗心燃やさなくても良いですから!」
ウサギ型ロボット、『プリティーラビット』に乗る赤目太郎少尉がたしなめる。
「太郎、馬鹿には何を言っても無駄だ……」
狼型ロボット、『ブレイブウルフ』に乗る山牙ウルリケ曹長が呆れる。
「アッハハハッ、まあクールにバトルしようよ~」
熊型ロボット、『パワフルベアー』に乗る浪江ベアトリクス軍曹が笑う。
「GofE極東地区第十三特戦隊……通称『奇異兵隊』、期待しているぞ」
「ひゃ、ひゃい! が、頑張ります!」
土友の呼びかけに太郎が敬礼しながら答える。玲央奈が思わず笑う。
「太郎、お前声裏返ってんぞ?」
「しょ、しょうがないでしょう! ザ・トルーパーズの方にお声がけ頂いたんですから!」
太郎は興奮を抑えきれない様子で玲央奈に答える。土友がモニターを切り替える。
「……二辺工業の期待の新顔、双子の兄妹、リー・タイヤンとリー・ユエ、まだ若年の君たちをこのような危険な場所に駆り出すのは心苦しいが……頼りにさせてもらうぞ」
「なんのなんの、大船に乗ったつもりでお任せ下さい♪」
白い機体、『ヂィーユエ』に乗ったユエが明るく答える。眼鏡を光らせながら土友が呟く。
「……随分と落ち着いているな」
「失礼! 緊急時の為、通信を切らせて頂きます!」
青い機体、『ファン』に乗ったタイヤンが両機の通信を遮断する。ユエが呆れ気味に笑う。
「何を慌てているのよ? 怪しいものですと言っているようなものよ?」
「余計なことを言ったり、妙な素振りは見せるな! よりにもよってザ・トルーパーズの切れ者土友孝智相手に!」
「はいはい……まあ、ほどほどに戦いましょうか~」
ヂィーユエがブーメランを投げつけ、黒い物体を二体撃破する
「そう、それで良いんだ!」
ファンが二又槍を黒い物体に突き立てる。
「ちっ……思ったよりもやるな」
山上に移動し、『TPOシルバー』に乗って戦況を見つめていた銀が舌打ちする。同型機である『TPOゴールド』に乗る金が尋ねる。
「どうする? 我々で迎え撃つか?」
「いや、ここは奴らに任せる……」
「どんどん行くさ~って⁉」
「うおっ⁉」
シーサーウシュと鬼・極が次々と転倒する。日下部が驚く。
「どうした⁉」
「どこかから狙撃されたみたいだね~」
カナメがのんびりと呟く。
「狙撃だと?」
「一撃ずつであの二機をサイレントさせるなんて大したテクニックね~」
ウルリケは顔をしかめ、ベアトリクスは思わず感心する。玲央奈が叫ぶ。
「太郎! お前の出番だ!」
「は、はい……!」
太郎が機体の両前脚を頭部の両脇に持ってくる。前脚の先端は折り曲げている。
「『ウサギピョンピョンミピョンピョン♪合わせてピョンピョンムピョンピョン♪』」
太郎の機体はしゃがみ込んだような体勢のままで前後左右にピョンピョンと跳ねる。戦場を一瞬沈黙が支配する。それを見た日下部が言葉を失う。
「な、なんじゃこれは……」
「分かるよ、日下部。僕が言うのもなんだけど、流石にふざけ過ぎだよね~」
「な、なんてかわいいんじゃ!」
「ええっ⁉」
日下部の反応にカナメが驚く。それに構わず太郎が叫ぶ。
「8時の方向! 距離は3㎞です!」
「見つけた……大した索敵能力だな」
「!」
美馬隆元が駆る、異世界パッローナ製の機種であるエレメンタルストライカーの『テネブライ』がその高い機動力を生かして、相手との距離をあっという間に詰める。
「もらった!」
「ぐっ!」
「あれは行方不明になっていたロボチャン和歌山代表の『ピストレイロ・マゴイチ』!」
テネブライから送られてきた映像を見て、土友が驚く。
「……」
ピストレイロ・マゴイチは足元に現れた黒い穴に吸い込まれて行く。美馬も驚く。
「地面に消えた⁉」
「……これはどういうことだ?」
「答えは目の前にありそうよ、リーダー」
「なに? あ、あれは⁉」
殿水の言葉を聞き、視線を前方に向けた小金谷が驚く。二機の機体が現れたからである。
「ロボチャン奈良代表の『機法師改』と大阪代表の『ごんたくれ』か……」
土友の呟きに火東が反応する。
「つまり、攫われた連中は向こう側の手に落ちたってことかしら?」
「断定は出来ないが……概ねその認識で間違いないだろう」
「ふん!」
機法師改が錫杖を掲げ、光輪を発射するが、FtoVが躱す。
「狙いが甘い! 恨みは無いが、少し大人しくしてもらう!」
FtoVの巧みな攻撃を受け、機法師改はあっさりと倒される。
「おんどれ!」
「させるか!」
「ぐおっ!」
FtoVの側面を狙ったごんたくれに対し『電光石火』が斬りつける。殿水が笑う。
「電光石火! 寝ているのかと思ったわよ!」
「各部の作動確認等で出撃が遅れました! 申し訳ない!」
大洋が大声で謝罪する。倒された二機が黒い穴に消えていく。小金谷が舌打ちする。
「ちぃっ! この訳分からん術を解くには大元を倒すしかないか!」
FtoVと電光石火が山頂に立つ、百鬼夜行とTPOグラッスィーズに向き直る。
「……」
「あ、あれは⁉」
「兵庫代表の『幽冥』、京都代表の『風神雷神』、そして……『エテルネル・インフィニ』⁉」
新たに現れた五機のロボットに大洋たちが驚く。
「こうしちゃいられねえ! オーナー、俺らにも合体の許可を!」
玲央奈がアレクサンドラに合体許可を求める。
「……却下よ」
「な、なんでだよ⁉」
「また伏兵が湧くとも限らないわ、各個撃破しやすいように分離したまま待機しておいて」
「ちっ……了解!」
「ちょっと厄介な連中だが、一気に行くぞ!」
「はい!」
小金谷の掛け声に合わせ、FtoVと電光石火が突っ込む。そこに涼しげな声が響く。
「……念には念を押しとこか、そら!」
「「⁉」」
大洋たちが驚愕する。一瞬の眩い光の後、電光石火は『電』と『光』と『石火』の三機に分かれ、FtoVに至っては上半身と下半身に分かれてしまったからである。
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