「向こうは戸惑っているで!」
「よし、先手を取れるよ!」
大洋は閃の言葉に頷き、電光石火に刀を構えさせる。
「喰らえ! 横薙ぎ!」
「おっと!」
「ふん!」
電光石火の横に薙いだ刀をシーサーウシュは左足裏で、鬼・極は刀でそれぞれ受け止める。
「くっ、流石の反応だな!」
「ほい!」
「ぐっ!」
シーサーウシュは左足で刀を跳ね返すと、即座に屈みこんで、右足で電光石火の左脚を払う。電光石火はバランスを崩し、仰向けに倒れる。間髪入れず、シーサーウシュは前宙返りをして、右足のかかとで電光石火を踏み付けようとする。
「速攻でとどめさあ!」
「うおっ!」
大洋が電光石火の機体を後転させて、かかと落としをなんとか躱す。隼子が驚く。
「あ、危なっ!」
「一旦距離を取ろう!」
「分かっている!」
閃の言葉に答えると同時に大洋は電光石火を後退させる。
「縮地!」
シーサーウシュがあっという間に電光石火との距離を詰める。大洋が舌打ちする。
「ちっ、これがあるか!」
「頭部のバルカンで牽制だ!」
「よしっ!」
「ほっ!」
「何⁉」
電光石火は頭部からバルカンを発射するが、至近距離にも関わらず、シーサーウシュはそれをあっさりと躱し、電光石火の懐に入り込む。隼子が悲鳴のような叫び声を上げる。
「な、なんちゅう反応速度や!」
「シーサーナックル!」
「ぐおっ!」
シーサーウシュの強烈な右拳が電光石火に当たり、電光石火は吹き飛ぶ。相変わらずオープン状態になっている回線のままだが、それに構わずいつきが歓声を上げる。
「やった!」
「! まださ!」
「えっ⁉」
修羅の言葉にいつきが驚いた次の瞬間、電光石火の蹴りがシーサーウシュに当たり、シーサーウシュが仰向けに転がる。修羅が舌打ちする。
「ちぃっ!」
「そ、そんな! 後ろに吹き飛んだと思ったのに!」
「直前で機体を捻って、直撃を躱したさ……」
「距離を詰めたのはどういうことですか? まさか向こうも縮地を⁉」
「刀を地面に突き立て、強引に反動をつけてきた……プロレスのロープワークの要領だね」
「そ、そんな無茶な……」
「なかなかの格闘センスだね……」
修羅はシーサーウシュの体勢をすぐさま立て直して感心したように呟く。
「回線がオープンだから丸聞こえなんだけど……お褒め頂いているよ、大洋」
閃が苦笑交じりで大洋に話しかける。
「……型破りな戦闘に付き合っていたらこちらの身がもたん」
「適切な状況判断が出来ているようで良かったよ」
「次に取るべき手は……一つ!」
「むう!」
電光石火は刀を構え直すと、すぐに鬼・極に斬りかかるが、再び刀で受け止められる。
「くっ!」
「この国内有数の刀匠に打ってもらった刀、『鬼刃』に対して鍔迫り合いを挑むとは……身の程知らずでごわすな!」
接近している為、幸村の声が電光石火のコックピットに響く。隼子が戸惑う。
「な、なんちゅうパワーや!」
「ふん!」
「ぐっ!」
再び電光石火は鬼・極に押し返される。
「今度はこちらからしかくっ!」
「飛んだ⁉」
「チェストー‼」
「うおっと⁉」
鬼・極がジャンプして、刀を振り下ろす。大洋は受け止めようとしたが、寸前で回避に切り替える。振り下ろした刀が地面を抉ったのを見て、隼子が戦慄する。
「あんなのまともに喰らったら……」
「『薩摩の剣は初太刀を外せ』と、先人はよく言ったものだよ! 大洋、反撃だ!」
「おう! うっ⁉」
閃の声を受け、反撃に移ろうとした大洋だったが、それよりも速く鬼・極が激しい勢いで斬り掛かってくる。大洋はこれもなんとか躱す。
「むん!」
「ちいっ⁉」
「何度も躱されるならば当たるまで打ち込むまで!」
鬼・極が三度斬り掛かろうとする。
「この!」
「ぬ⁉」
大洋は電光石火を敢えて前に急加速させ、鬼・極と機体同士を思い切り衝突させる。両機はそれぞれ仰向けに転がる。大洋は一瞬、意識が飛びかけるがなんとか持ち直し、頭を左右に振って、電光石火を鬼・極から距離を取らせる。
「……む、無茶するなや! 当たり屋やないねんから!」
やや間があってから意識がまともに戻った隼子が叫ぶ。
「イチかバチかうまくいった!」
「イチかバチかって!」
「や、やはり近距離戦では苦労しそうだね……」
「ああ……ん⁉」
閃の呟きに大洋はこくりと頷いた後、目を見開く。シーサーウシュが鬼・極に猛然と襲いかかったからである。
「そらっ!」
「!」
「おっ⁉」
シーサーウシュの繰り出した鋭いキックを鬼・極が刀で受け止める。いつきが驚く。
「反応した⁉」
「転がって不安定な体勢だと思ったんだけどね~」
「なむっな!」
幸村はそう叫んで、シーサーウシュを豪快に押し返す。今度はシーサーウシュが転倒しそうになる。修羅が戸惑うように声を上げる。
「おおっ⁉」
「今や!」
鬼・極の体勢を立て直し、シーサーウシュに向き直り、刀を振ろうとする。
「そらっ!」
「なっ⁉」
幸村は驚く。転倒しそうになったシーサーウシュが右脚で踏ん張るとほぼ同時に踏み切り、宙に舞って回し蹴りを放ったのである。鬼・極は思わぬ角度からの攻撃を右側頭部に喰らい、機体をよろめかせる。
「畳み掛ける!」
「くっ!」
「むっ!」
空中でバランスを取り直したシーサーウシュが今度はサッカーのオーバーヘッドシュートのような体勢になって左脚で蹴り掛かるが鬼・極がそれを右肘で受け止める。
「おりゃ!」
「どわっ!」
鬼・極が刀を勢いよく振り上げる。シーサーウシュはなんとか直撃を躱すが、激しい風圧に押されて、後方に飛ばされる。いつきが驚き、修羅が舌を巻く。
「な、なんというパワーとスピード……!」
「こりゃあ思った以上に手強いね~」
(ま、まるで生身の体を動かすかのように機体を自由自在に操っちょっ……。そげん操縦機構だということは分かってはいたが、どうしてなかなか厄介であっと……!)
幸村は肩で息しながら、シーサーウシュについての印象をまとめる。
「あ、あれ? 銀くん、三組とも無事みたいですよ?」
「う、うん、金ちゃん、こちらも確認したよ……」
「「「!」」」
そこに二体の茶色いカラーリングの機体があまりにも不用意すぎる状態で近づいてくる。
「あ、あれは……?」
「TPOグラッスィーズだね、正直忘れていたよ……」
隼子の問いに閃が答える。大洋が二体に向かって電光石火を突っ込ませる。
「恨みはないが、この均衡した流れを変えるきっかけにさせてもらう!」
「よっと!」
「飛んで火にいるなんとやらじゃ!」
同じことを考えていたのか、シーサーウシュと鬼・極もその二体に突っ込む。
「うわわ!」
「ど、どうします⁉ 銀くん⁉」
「お、応戦です!」
TPOグラッスィーズが慌てながらも手に持っていたライフルを発射する。
「当たらん!」
「ひょいっと!」
「その程度か!」
わりと素早く正確な射撃であったが、電光石火ら三機はこともなげに躱す。
「……結構やるようだ、どうする銀?」
「……面倒だがそろそろ本気を出すぞ、金」
「「「⁉」」」
TPOグラッスィーズの纏っている雰囲気が急に変わったことに三人は驚く。
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