夢物語研究室

優妃
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第2章【黒髪の英雄】

公開日時: 2020年12月11日(金) 12:23
文字数:1,152


フェートン。


ここ最近スラム街で大きく張り出されている俺の名前。


張り紙の内容はこう。


『黒髪の英雄、フェートン


     きっと彼は我らの神になるだろう。』


いや、ならんわ。阿呆か。


俺は色んな所を旅している、それにはまぁ理由があるんだがそんなものはどうでもいい。


今回行くのは中央の國ケントリクスはウェイストグラ。


最近、風の噂で【異能を持つ双子】の話を聞いて偵察に来た。


え、俺の職業が何かって?そんなものは無い。ただの旅人だよ。


ガタゴトと揺れる馬車に乗って目的地へと向かう。


そんな中、1人の老人に出会った。


「お前さん、旅のお方かね?」

「俺ですか?そうですよ。」

「異能持ちじゃな。何故こんな所にいる。何処かで悪さをしようってんじゃねぇだろうな?」

「まさかぁ、俺、面倒ごとは嫌いなんです。」

「ふん。信用ならねぇな。」

「なんなら自己紹介しましょうか?」

「聞いてやろうじゃねぇか。」


名前、年齢、誕生日、東の国生まれである事、異能は【rapture】である事、理由があって旅をしていること、スリーサイズを言おうとしたら断られた。


「なるほどな。それで、理由ってのはなんなんだ?」

「それは秘密です」

「気持ちの悪ぃ笑顔だな。」

「辛辣ですね。」


その後は何かと話が盛り上がって時間が経つのが早く感じた。


「それでは、俺はここまでですので。」

「あぁ、お前さん、慣れた喋り方の方がいいと思うぞ。」

「…なんの事ですかね?」

「むだや。お前の喋りはこっちやろ。」

「…なんや、バレとったか!ありがとな!おっちゃん!」

「あぁ。」


しゃがれた声で言う老人に礼を言って馬車から下りる。


それと同時に風が吹き上げ、青葉が揺らいだ。


揺らいだ草むらの中に気配を感じる。


1、2…3、5人か。


知らないフリをしてすすめば、その気配は止まることなく着いてきた。俺が標的だと確信し、後ろを振り返り叫ぶ。


「貴殿らは何が目的だ!俺の何を求める!」


そうすると一人の女の子が草むらから顔を出し、両手をあげる。


金糸のような美しい髪に、猫の耳としっぽをつけて、包帯を拙く巻いた片脚を引きずらせながら出てくる。


「なんだ、怪我をしているのか?」

「まぁそうだな、」

「全員出て来い。」

「おい!皆!出て来い!」


そう声をかけるとほかの4人も目視できるように出てきた。


「なんだよ、いい取引でもできたか?」

「………………。」

「どうしたんだよルーン。」

「何、怖い人?」


出てきた奴らは皆、血の滲んだ包帯が巻いてあり、顔に大きな傷が残っている者や、中には四肢が欠損している者もいた。


「お前らは異能持ちか?」

「俺とコイツとコイツだけだ。」


そう言って片腕をなくしたおっさんが、自分と猫の少女と一向に口を聞かない少年を指さす。


「そうか。」


パチリと少女と目が合う。


「終わりだ。」


そのつぶやきと共に意識は深い闇へと堕ちて行った。


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