天つ乙女と毛獣(#あまおと)

羽衣伝説×古事記の和風ファンタジー小説です。
安房桜梢
安房桜梢

【02】ヨモツの姫君

公開日時: 2020年11月30日(月) 21:51
文字数:1,483

ちょうど、クイーンがオオグラ池にいる頃。



場所は移り、オオグラ池から四里離れたコの字型の盆地にあるヨモツ国の本拠地のアラガミ城。


そこは、本拠地としての平城があり、それを中心として碁盤の目のように城下町が形成されていた。


地球の日本でいう京都によく似た町であった。



そして、城のお膝元には、木と土壁でつくられ、赤色の漆で塗られた豪華な装飾の館がいくつか建っていた。


そのなかで、青龍の方角にあり、玄関の入口に色鮮やかなえんじ色の若葉がまじるさくらの花が飾られ、一際目立つ館があった。



館には、m字型の結いとハイドと同じ灰色の髪、赤色の目、またすばる王朝の王位継承者・タキリ(百合子)をも圧倒する容姿端麗な美貌を持つ一人の少女がすんでいた。


彼女の名前は、シコメ。


ミタマの養女ながら、ヨモツの王女や姫で、ちょうどこの日、12才の誕生日を迎えたばかりであった。


性格は、元気で甘えん坊、いい意味でのおさなさを漂わせる女の子である。




シコメ姫は、自らの住む王女の館の庭にてござを敷き、星を眺めようと仰向けにねっころがっていた。


そのとき、

「ナミがおらへんからうち退屈やわ。早よう向かいの世界から帰ってこへんかな? 手鞠遊びの相手をしてもらいたいわな」

シコメ姫は、ぼーっとした様子で玄武の方角に浮かぶ子の星を眺め、義理の姉というナミの帰りを待ちわびていた。


続けて、

「何かやることあらへんかな? ゴロゴロしてるんの嫌や」

シコメ姫は、退屈そうな様子を顔のうえに表し、しばし考えを巡らせた。


そして、

「そうや、うち、ヨモツの姫やったわな。この身分使うたら、地下に閉じ込められてるお母様を助けられる。父ちゃんとゲアシオしかおらへんし、見張りも向かいの世界にいってて手薄やから、いまがまたとない機会や。シコメ、行くで!!」

シコメ姫は、パッと頭のうえに明かりがついたような様子で目を見開かせた。


彼女は、母を助ける作戦を考え出し、すぐさまござをたたんで行動に移した。


心のなかで母を助ける決心が固まったのか、狂いのない美しく研がれた刃物のような表情を見せた。




さっそく、シコメ姫は、茶色い土の塗り壁に立てかけておいた護身用の長槍を背中に背負い、足にアシクサの沓を履いた。


次に、腰帯に干した柑橘に塩のにぎり飯の入った袋、右手に火をつけた松明、胸元に翡翠など石や動物の骨でつくられた王女の証の勾玉の首飾りを手元に用意した。



彼女は、支度を終えるのとともに、着衣の腰紐を解いて地面におろし、生まれたばかりの嬰児を思い起こさせるむき出しの姿となった。



それとともに、シコメ姫は顔を上げて目の前を見て、脳裏にうつる祝詞を読み上げながら目の前に池に飛び込んだ。


どうやら、かつて存在したすばる王朝のしきたりにのっとり、手や口・顔・髪をすすいでけがれをおとす禊をしているようだ。



シコメ姫は、一時池に浸かり、禊ぎをすました。



その後、再び衣をまとい、目と鼻の先のすばる時代から現存する水神の祠へと向かった。


シコメ姫は、夕食の強飯を食べずにつくった餅を祠の前に供えるのとともに、お参りを始めた。



「神様。お利口にしますから、代わりにお母様とうちをヨモツの外に脱出させてくれまへんか?」

シコメ姫は、祠の前で目をつぶり、手と手をしわをあわせた。


どうやら、彼女は、頭の中に願いごとを浮かべているようだった。



「シコメ。うちの自慢のお母様を助けにいきまっせ!」

シコメ姫は、意を決したのか真面目な表情を顔に浮かべて言葉をつぶやき、明るい松明や天上の星の光をたよりにして歩き始めた。


彼女は、ありとあらゆる方向に気を張り、何かに押されて急ぐかのごとく足を進めた。

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