無厭足――。それは自身の幻影。分身を五体生み出すスキルだ。
「どレが本物でもイイように全力でブッタ切るダケダ!!!」
「それは俺も同じだ!」
互いに幻影を斬りつける度、斬りつけた幻影は霧散していく――。
「「おおお!!!」」
互いの斬撃は幻影が全て霧散させ、残った俺達は刀をぶつけ合うと眉を顰めていた偽ライムは突然目を見開き、刀を押す力が弱まった。
「——!」
「どうした?」
押し切ると吹き飛んだ偽ライムは水しぶきを上げ、片膝を着いて辺りを見渡し、俺への注意が逸れる。まるで眼中にないくらいに、背を向け四方八方を見上げる。
「まさか……!」
「よそ見――!」
追撃しようと、下段に刀を構えた俺は踏み込もうと足を前に出した瞬間——。おぞましい殺気が偽ライムでもなく、どこからか俺の背中を撫でる。まるでナイフの刃先で背中を撫でられる感覚だ。
「マズイ。おい相棒! そこカラ離れロ!」
「なんだこの……感覚」
「バカやロう!!」
立ち竦んでしまった俺はいつの間にか、急接近する偽ライムに肩を掴まれ、横に姿勢を崩す――。その数秒後、彼の悲鳴が聞こえ、血の飛沫を浴びる。
「……え?」
「……干渉し、テきやが、ったか」
緩慢とした視界で海面に倒れる偽ライムの下半身は吹き飛ばされ、流れる血が海を深紅に染めていく。一瞬の出来事だった。どこからの攻撃かも分からず目を瞬かせた俺は偽ライムの両肩を掴み、仰向けに抱き上げた。
「お、おい! しっかりしろ!」
「このドンクサ……やろ、う」
今にも目が閉じそうなその姿に俺は辺りを見渡す。水しぶきが起きたわけでもない。特に攻撃された形跡もない。ただ目の前で偽ライムの下半身が吹き飛んだだけに映った俺は底知れぬ恐怖感に囚われる。
……一体何が、どうなってんだ!
「テメ……ェはいいカラ刀を収めロ……スサノオを――」
「……くっ!」
偽ライムをそっと海面に下ろし、言われるがままに刀を鞘に戻すと、隣にミーコが姿を現し同様に辺りを警戒するように目を動かした。
「ミーコ! これはなんだ!?」
「これは……わちとおぬしへの干渉という名の攻撃じゃ」
「誰がそんな――!」
嫌な考え――。それが俺の言葉を詰まらせ、ミーコは俺に背を向けて軽く息を吐く。
「あぁ、イワスヒメじゃろうな。ヴェガス……そっちに奴は目の前におる」
「目の前って……」
「安心せい。今の攻撃がわちらに当たったと思っておる。相手もクトス達に察知されないよう派手には動きたくないはず……暫く様子を見るだろう」
焦燥する俺に対し、ミーコは背を向けたまま冷静な声でそう答えると、偽ライムの呻き声に視線を変える。
「スサ、ノオ。お前……モット、はや、くに相棒に話せタ、ロ」
「イワスヒメの事か?」
「ち、ゲーよ……」
「なんの話だ……。ミーコ?」
再び、ミーコに視線を変えるが、背をむけたままなにも答えない姿に眉を顰めた俺は歯を食いしばった。
「黙ってねーで何とか言えよ!」
「……わちが」
「なんだよ!!」
―――。
「わちが。おぬしの母を殺したのだ」
弱弱しく、震えた声が俺の思考を完全に止める。
「は……?」
「マズイ、まずは、ヴェガスに戻レ」
「……お前は?」
「オレはお前ラが生きてイレバ、すぐに治ル」
「俺ら……?」
俺とミーコが生きていれば――? でもあいつは母さんを……。
「おイ、相棒。今はそノ、感情はダメだ! オサ、えろ! 黙っテその感情ヲオレによこセ!」
いや――だ。
「ば、カやろう」
次回 黒き邪神
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