「なんでクトスはついてこないんだか……」
「二日酔いですね。任務中というのに困った人です」
「今日は何をするのじゃ?」
ボワを出て、うっそうとした道を歩く俺達にノイザさんは足を止めると、リンクシステムに右人差し指でなぞり、ウィンドウを開いた。
「まずは……どうぞ」
ノイザさんは笑い掛けそう言うと、目の前にウィンドウが開かれ、視線をそちらに向ける。
「パーティーメンバーの誘い?」
「はい。ヴァイス様からの話だとハオ君は、この世界に来てすぐに大変な目に遭っていたと聞いております」
「あの野郎……余計なんだよ」
「なので、少しでも気分転換に、MMORPGらしい事をしましょう」
「え? あぁ、そう言えばこれ一応MMORPGだって事すら忘れかけてたな。というと、なんかのクエストか?」
苦笑いしパーティー参加ボタンを押すとノイザさんは頷き、自分のウィンドウも閉じる。
「はい。朝一に市街地でボワ探索のクエストを受けてきました。なにやらレアモンスターが近くにいるみたいなんですよ」
「へー……。どんなモンスターなんだ?」
「それが……」
優しく微笑み細くした目は一変し、真剣な眼差しへ変わった。その姿に俺は緊張が走り、眉を顰める。
「な、なんだよ」
「妖精です。それもパーティーメンバーは男だけでないと現れないらしいんです」
……そうか。ノイザさんはMMORPGらしい事をしようって言ってたわけだし、そんな重要な事ではないよな。クトスも居ないわけだし……。それより――。
「ミーコはどうすんのさ」
「パーティーメンバーは男だけ。神は参加出来ないので……恐らく平気でしょう!」
「男だけって……嫌な予感しかしないんだが……」
――――。
三時間樹海を探索し、それは現れた――。数メートルの高身長。そして肥満体に、アゲハ蝶のように鮮やかな羽を広げ、長い睫毛は瞳さえ見えないくらいに毛深い。これぞまさに、たらこ唇といえる口の周りを舐め回し、地響きを鳴らし俺達を追いかけてくる――。そう、ブスなレアモンスターであった。
「ってこんなの妖精って言わねーだろ!!!!」
『うっふーん! いい男達ねー! いらっしゃーい!』
「なぜわちまで逃げ回る必要があるのじゃ!!」
小さい歩幅で必死に隣を走る敏捷なミーコは俺を睨みながら、耳の鼓膜が揺れるような高い声を発した。
「はぐれたらお前の場合大変だろが!」
「そんなものハオが刀を引き抜けば、わちが共鳴に応えて、瞬間移動できるのじゃ!」
「なっ! てめぇだけなんで休む気満々なんだよ! ……だー! じゃぁ、これでいいだろ!」
仕方なくミーコを抱きかかえ、やや足に負荷が掛かるが気合で踏み込む。まったくこの先ノープランな俺は隣を走るノイザさんに目をやると、清々しいくらいに笑みを溢していた。
「これはいい汗かきますねー!」
「「って呑気か!」」
「おー。息ぴったりですねー」
「「誰が――!」」
『んもう! 来ないならあちきから行っちゃうわよー!!』
痺れを切らしたブス妖精が遂に追いかけるのをやめると、飛び上がり羽を翻し飛ぶと思いきや、俺達の足元は黒い影に覆われ、次第に影が大きくなり見上げると迫る肥満体に俺達は――。
「「うわぁぁあああ!!!!」」
――――。
「はぁ、はぁ、とんだブス妖精だった……」
咄嗟にミーコを放り投げ、神器を手にし、ムカつくブス妖精の顔のお陰か。多少の電撃が刀身に流れ、落下する妖精の腹部を斬りつけ――。何とか討伐完了。
何処かも分からない樹海の中。息を上げるミーコと俺にノイザさんの明るい声と通知音に両膝に両手を付け、下に向けた顔を上げる。
「討伐完了ですね! ええっと……お、早速クエスト発注所から報酬メールが届きましたよ」
「せめて報酬だけは……?」
通知画面に目をやると、報酬内容に俺は目を瞬かせた。
え? 報酬で――。
少し信じがたい報酬に困惑していると、ノイザさんの自慢げに語る声が耳に入る。
「そう、レアモンスター討伐というのは、コンバートスキルを一つランダム解放する。というありがたい報酬なんです」
「もしかしてノイザさん。これの為に?」
静かに、ゆっくりとかぶりを振るノイザさんは後ろに倒れていた木に腰を下ろすと、流麗な口調で口を開く。
「いいえ。ハオ君と会ってからずっと、煮詰めたような表情でいたので、私は気分転換をさせたかったんです」
「……なんか。そういう素直じゃない所はクトスと似てるな」
微笑みそう言うと少し驚いたのか、ノイザさんは目を瞬かせた後に面映ゆそうな表情で頬を掻いた。
「一応……褒め言葉として受け取りますね。私は契約者でもありませんし、今見ていた通り戦力にもならないです。まぁ主にコンバートスキルも潜入向けですしね」
「そうなのか」
目を伏せたミーコはその場に座り込み、手で顔を扇ぐのを一瞥すると続けてノイザさんの声が耳を通る。
「はい。ただ……つっかえている事が心の中にあるのなら、出来る限りの範囲でまずは解消してみてはいかがですか?」
「解消……か。でもその要素はかなりあるんだよなー」
こればっかしは、解消という問題が多すぎる。一体どれから手を付けていいか分からない俺は思わず溜息を吐いて、頭を掻いた。そんな姿にノイザさんは笑い掛けた――。
「今最低限する事でいいと思いますよ。ハオ君とスサノオ様で成し遂げられる事……。それは何よりの自信にも繋がりますから」
「成し遂げる……か」
その後ノイザさんは先に潜入調査をしていた分、ヴァイスに報告する為その場で解散する事になった。討伐も終わり、一旦は宿に帰るものの。クトスは絶賛二日酔いのまま動けない状態を見るも溜息しか出ない。仕方なく、樹海のモンスターでも狩って経験値を稼ごうと再びうっそうとした道に俺とミーコだけで戻り、ノイザさんの言葉で俺はある考えに、右手の拳で左掌を小槌のように叩く。
「提案があるんだけど……」
「なんじゃ?」
「感情のコントロールっていう点で俺達でしか成し遂げられない……うってつけの相手がいると思うんだよ」
「あのノイザという男か? そうは見えんが」
「違う。偽ライムの事だ」
次回 早めの再会
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