涙を拭き、イワスヒメの背後に二つの影が蠢いた。地面の草、幹を踏む音に姿を現す。一人は黒いスーツに黄金色のツインテールを揺らし、新緑の瞳を細め、にたりと笑う。もう一人も同じく黄金色の腰までの髪は毛先が緩く巻かれ、歩く度に少し揺れる。冷めきったような薄黒の瞳にイワスヒメと同じような紅色のドレス。
「やっほー。僕達に気付いてたなんてやるねー。殺気は完全に消してたと思うんだけど」
「イワスヒメ様。本当にいいんですか?」
僕達? あのツインテール……男か?
イワスヒメの前に立ち並ぶ二人は、クトスではなく俺を見詰め鼻で笑う。
「あぁ、その間。お前らが奴と遊んでおれ」
「りょーかーい」
「畏まりました」
軽い口調と流麗な口調の後。クトスは右手を前に広げると槍は引き寄せられるようにイワスヒメ達の間を駆け、クトスの掌へと戻った。
「じゃぁ行こうか」
「場所は任せよう。エスコートしろ」
「ハオ。こっちは任すぞ」
振り向かずクトスとイワスヒメは一瞬で姿を消し、静けさが残る――。刀を下段に構え、二人の動きに細心の注意を払うと、ツインテールの男が軽い溜息を吐き、首を傾げた。
「さて、僕達と君だけになったね。後ろの神ちゃまとはどうも喧嘩中みたいだし」
「そんなんじゃねー。こいつは……もう関係ない」
後ろからミーコの喉が詰まったような声が耳に入り、かぶりを振る。
——今は余計な事を考えるな。目の前の敵にどうやって戦うか。相手のコンバートした能力をまず知る事に専念しろ。
「そう? ならさっさと逝っちゃえー!!!!」
ツインテールの男は手を天に掲げると、掌の大きさの蜂が男の背後に生い茂る木々から無数に姿を現し、うるさいくらいに樹海に響く羽音は一気に俺に近づいてくる――。
「——!」
その一瞬。薄暗い樹海に一層の暗闇が地面を覆い、蜂の大群から視線を上へと上げる――。尾が三つの白銀の狼——。
「うわぁ! でか!」
「二人共何してるの! 現状を理解してないでしょ!?」
ツインテールの男は半ば喜んでいるような声を上げると蜂の大群を引かせ、俺の目の前に地鳴りと共に着地する狼の背から口荒い声が聞こえ出した。
「ティアラ……なんで?」
「ヴァイスさんの所で今までの行動を見ていて……。見てられない気持ちになったから頼んで転送してもらったの!」
「でもイワスヒメは――」
「……クトスさんに任せれば大丈夫。今はこっちでしょ!」
「お、おう」
眉根を寄せるティアラの言葉に握っていた柄の力が抜け、冷静になろうと深呼吸をする。
ティアラのお陰で二対二。今のツインテールの男の攻撃は恐らく召喚に似ているスキルのはずだ。それにティアラのこの狼も召喚スキルだろう。下手にスキルが一つも分からないもう一人の敵をティアラには任せられない……。
「嘸かし戦いにくそうなドレスを着た女。名前は?」
「……無粋な言い方ね。カリンよ」
「カリンか」
「いいわよ。バベルはお友達とやらせてあげる。あなたは私が相手するわ」
髪をかき上げ、魅惑的な笑みを浮かべるカリンから視線をティアラに向けると、会話を聞いていたのか。ただ頷いた。
「話が早くて助かる。早々にお前を倒して加勢しに行きたいんでね」
「生意気な子ね」
「場所……変えるぞ」
カリン
次回 中身のない甲冑
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