オーガナイズゲーム

~残酷な世界で死ぬ嫌なのでロリ神と契約して強くなります~
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条件

公開日時: 2020年9月10日(木) 21:05
更新日時: 2020年9月26日(土) 18:40
文字数:2,686

  

「刀を抜くつもりか?」

「答えによってはな……」

 

 柄に振れる俺を見ても、一切顔色を変えないヴァイスに、緊張が走る――。

 

「おいおい。ハオ……。変な真似はするな。ヴァイスは味方だ」

 

 俺の肩に手を置いたクトスは耳元でそう囁くが、柄に触れた右手は引くことはなかった。視線はヴァイスから離す事なく、今も足を組み伸ばす弛緩した姿に眉を顰めたまま――。

 

「でも、こいつは統括者なんだろ? ならETBEとの繋がりもある訳じゃないか」

「私がETBEと繋がりが……あるとしたらなんだ?」

「くっ……。お前も殺しには賛同してんのか?」

「……だとしたら?」

 

 蠱惑な態度に、遂に触れていた右手は柄をしっかりと握らせる。俺が前に屈むと、杖をこちらに向け、真珠のような宝石はうっすらと光り輝き、ヴァイスの左目は銅色から金色へと変わった。

 

「お前も……。そりゃそうか。その目はやる気満々だと、受け取っていいんだな?」

 

 俺の質問に答えず、ただ杖の光は一層に明るくなり、こちらを睨むヴァイスに足を踏み込ませた時——。間に入るようにクトスが立ちはだかる。

 

「おいおい。二人とも落ち着け! ハオ、お前はある程度、この世界のメカニズムをまず知る事が大事だろ? ヴァイス、お前も呼び出したって事はイワスヒメの調査をしろって話なんだろ? 互いに今すべき事は殺し合いじゃなく別にあるだろうが」

 

 鼻で笑うヴァイスに釈然とせず、俺とヴァイスに注意の目を向けるクトスに視線を変え、煽るように口を動かす。

 

「どうやら、統括者様は反省する気が無いようだが?」

 

 未だに柄を握る俺の手元を見たクトスは目を閉じると共に溜息を吐いた。

 

「いいか? ハオ、お前……ヴァイスを殺すとして、何か疑問が生まれないのか? ここはヴェガスだぞ。処罰されないとでも思ってんのか?」

 

 また靄が掛かった記憶から、クトスに似たような事を言われた気がし、冷静に考えようと少しの間沈黙する。

 

 そうだ。ヴェガスでの警察は捜査方法の一つに確か――。

 

「それは……。あぁ、ヴェガスなら殺人が起きた場合、被害者の死後直後の視界映像から犯人を割り出せるって話か?」

「そうだ。ならなんで、赤毛の男の子を殺した奴は捕まってない?」

「た、しかに」

 

 目先の事で熱くなっていた俺は、クトスの言葉で徐々に熱を覚まし、柄から右手を放させた。その姿に安堵したのか、クトスは息を吐き、咳払いをする。

 

「今この場で、仮にヴァイスを殺したら、お前は間違いなく処罰される」

「なんでだよ……」

「視界映像がヴァイス、そのほかティアラ、俺のがあるからだ」

「でもあの男は俺の目の前で、ライムを殺したんだぞ? その差はなんだよ」

 

 突き詰めるようにクトスに迫り、焦燥とした俺は答えを急かした。

 

「オーバーキーラーは馬鹿じゃない。相当な腕が経つ技術者でもあるんだ」

「つまり……どういう事だ?」

「リンクシステムの転移機能、ヴェガスでオーガナイズの地域だけ使える限定機能の回復装置。これは回復魔法、自動治癒機能にあたるな。そしてある程度の範囲にいる人間の、視界映像と自分の視界映像……この三つの機能をハッキングで一時的に停止させた上で、対象の肉体を切り刻み苦痛を与え続け、現実世界のカプセルに収容された生身の体をショック死させる」

 

 腑に落ちない。いや腑に落ちる訳がない――。

 

 後退り、視線を下に向け、静まり返った幾何学模様の部屋で掠れる俺の声が響く。

 

「そこまでして……到底理解できない。というか、ハッキング元は追えないのか?」

「うんうん。理解できないのは当たり前だ。俺もお前も殺人鬼じゃないからな。それに追う事は出来ない。……いや、ETBEがさせないと言った方が正しいな」

 

 何なんだよETBEって機関は……とことん殺しを求めてやがる。クソ――!

 

 込み上げる怒りに歯を食いしばっていると、ミーコの声が横から聞こえ出す。

 

「ハオよ。わちの条件はそれなんじゃ」

「どういう意味だ」

 

 横に並び、俺を見上げるミーコは逡巡とした素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。

 

「この世界でこれ以上の殺戮を止めたい。邪神もオーバーキーラーも駆逐する。それが条件――。おぬしは今の話を聞いても尚、創られた神であるわちと共にその道を歩むか?」

「……確かに。お前も、他の神も人の命を土台にして作られてきたのは分かったよ」

「そうじゃな……今なら、わちは契約を破棄しても構わない。その代わりこの世界には、もう来ないでほしいのじゃ。最悪わち一人でもイワスヒメと戦う」

 

 突き放すようなミーコの言葉は、俺の中で逆に反発を産ませる。それにどんな条件でも呑むと言ったのは俺の方だ。

 

 契約したあの日、ミーコは俺の命を守ると言った。それに契約を破棄してもいいが、この世界にはもう来るな。これは俺の身を案じて言ってくれているのだろう。なんでそこまで思ってくれているのかはよく分からない。ただ……このまま放っておけば、ミーコは死んでしまう。そんな気がした。

 

 俯き、顔が見えないミーコの頭を撫でながら軽い吐息と共に微笑む。

 

「ここまで知って、目を逸らして逃げ出せって? いや……。無理だよ。知った上で、力もあるのに助けられる命を無視するなんて、それは俺の一番嫌いな罪だからな。……それに今のお前を見て一人で戦わせるなんて酷な事できない」

「そう、か」

 

 やはり……ここに俺が居てほしいとは思っていないのだろう。

 

 耳を澄ませなければ、はっきりと聞き取れない声でミーコはそう一言を呟いた。そんな姿を直視出来なかった俺はヴァイスに視線を変えて、眉を顰める。

 

「……ヴァイス。今はイワスヒメとか言う神について、俺も協力したい」

「構わないが――」

「だが、全てが終わった時、お前とも片を付ける。いいな?」

 

 構わない。その一言が聞ければいい。そう思った俺は被せるように、改めてヴァイスにそう告げると、呆れた溜息と共に、金色に光る片目を鎮めた。

 

「……勝手にしろ」

 

「うんうん! 取り敢えずは話が前に進んで良かった! 良かった! それで? ヴァイス。イワスヒメは今どこにいる?」

 

 クトスは苦笑し声を張りながら、両手を叩き話題を強引に変える。杖を宙で円を描くように動かしたヴァイスの背後からは、大きなウィンドウが展開され、樹海の中にひっそりと暮らしている人々を映し出した。大きな大樹が商いを取り囲み、大樹は中をくり抜いているのか外見はマンションのように小窓がそれぞれついている。

 

「ボワというこの村近辺のようだ。既に何人か行方不明者が出てきている」

「行方不明者って……騒ぎにならないのかよ」

 

 当たり前の考えに、クトスは困った表情で頭を掻き出し、口を開いた。

 

「あぁ、ボワっていう村は少し特殊なんだ」

次回 調査任務開始


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