「な!? おぬしは馬鹿か!?」
偽ライム――。それはパワーワードだったのだろう。樹海にミーコの声が響き渡り、鳥たちの鳴き声が騒めくように反応する。しかし俺は見開くミーコの両目を見詰め、淡々と口にする。
「割と本気。あいつが本当に俺とミーコの黒い部分なのかは、置いといて、あの逆撫でする態度なら、感情のコントロールの修行にもなるしどうかなって、刀も持ってたし」
「なんと……安易な考えなのじゃ。じゃがしかし……うーぬ」
溜息に懊悩を重ねるミーコに腰を折る俺は、微笑み掛けた。
「大丈夫。あいつも自分から話す気は無いって言ってたし、俺達の中にいるなら、それなりの賃料を頂かないと」
「まったく。おぬし、危ない道と思わないのか?」
「そうでもしなきゃ、イワスヒメには勝てないと思うんだ。ノイザさんも言ってただろ? まずは解消していく事だって。俺達で出来る事をさ!」
誇らしげに俺はそう言って人差し指を立てる。呆れた表情を見せるミーコは俺の人差し指を軽く払いのけ、眉を顰めた。
「……最初に言った通り。わちはおぬしの意見を尊重しよう。しかし、信用ならん相手という事を忘れるな」
「おう」
「仕方ない。じゃぁ、参るぞ。座り、目を閉じるのじゃ」
言われるがままに腰を折っていた俺は、うっそうとした茂みに胡坐をかいて座り込み。目を瞑る――。
頬を掠めるような冷たい感覚――。どうやらまた海の空間に来れたようだ。ゆっくりと目を開き、目の前には濃い霧が視界を埋めた。
「ホウ。早めの再会ジャネーか。相棒」
「よお、お前をぶっ飛ばしに来たぜ」
そう宣言すると一気に霧散し、海面に空が顔を出す。ただ前を見据えていると五十メートル程先で、全て呑み込みそうな黒い両目に眉を顰め、不機嫌そうな表情で佇む奴の姿を捉える。
「アン? それをスルにはマダはえーだろ?」
「まだ?」
「けっ! ナニもシラナイんだな。いや、ナニも教えてモラエテないのか。相変わラズ可哀そうな相棒ダ」
本当にこいつは何者なんだ。何を知って、俺を煽る――。
「……確かにそうかもな。 けど、今日来たのはお前のその逆撫でする言動を前にしても、力のコントールをしたいと思ってきただけだ」
「アぁ、なるホド。感情のコントロールってコトか。確かにお前ハ、クトスとの戦いデ翻弄されてたモンなぁ!」
嘲笑い、両手をそれぞれの刀の柄に置いて肩を揺らす偽ライムに若干の苛立ちに、溜息を吐いた。
「うるせーよ。てか見てたのか」
「当たり前ダロ。俺はオマエなんだ」
このままだとあいつのペースに飲まれそうだな。
「……一つ聞きたい」
「アン?」
相手の刀に俺は指を差すと偽ライムは首を傾げ、眉をうねらせた。
「お前、腰に着けている刀は本物なのか?」
「アぁ。両方トモ本物だ」
「って事は能力も使えるのか? それとスキルもだ」
「アタリマエダ。感情のコントロールも出来ル。お前タチの負の感情を元に生まレタが、作りはそこのスサノオと同じ、喜怒哀楽サ。スキルもオナジ、お前がさっき取得したスキルだって俺モ使えル」
ある程度の疑問を聞き終え、俺は口端を吊り上げ、天叢雲剣の柄に手を置く。
「それさえ分かれば充分だ。五分五分ってことだしな」
「ハぁ? ナ訳ねーだろ。お前ミタイな弱い奴とイッショにすんな」
「ハオよ……」
不安なのが良く分かる――。そういった声に俺は後ろに佇むミーコに自分なりの精一杯の気持ちで笑い掛ける。
「大丈夫だ。さっさとぶっ飛ばして、コントロールしてみる!」
「イイぜ! コイヨ! お前達が捨ててキタ感情がドレホドの力を産んだか教えてヤルサ!」
甲高い声と共に偽ライムは両腰の刀を引き抜き、踏み込むと波紋すら起きなかったはずの海面が水しぶきを上げる――。
次回 偽ライムの教え
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