オーガナイズゲーム

~残酷な世界で死ぬ嫌なのでロリ神と契約して強くなります~
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契約

公開日時: 2020年9月6日(日) 15:30
更新日時: 2020年9月26日(土) 18:40
文字数:3,937

 

 呆れ肩を落とした瞬間——先ほどの子供のような高い声は背中から聞こえ、俺は弾かれるように振り向き、視線を少し下に落とす。

 

 子供……?

 

 そこには淡く透き通る水色の長い髪が腰まで延び、2本の太く纏まった毛が逆立たせ、姿は幼女であるが身の丈に合っていない紺色の着物からは白い肌が覗かせていた――。

 

 まるで生きているとは思えない程に、白く美しい肌の色によって協調性を増した大きく鮮血のような瞳は俺を見上げ、憐憫さを感じさせる。

 

「おぬしはこの状況を覆せる力が欲しいか?」

 

 幼女のその言葉に頭の毛穴が開くのを感じながら、俺は眦を吊り上げ、震える声を出した。

 

「当たり前だ。救える力、殺せる力が……あいつを八つ裂きにして、後悔し泣きじゃくる姿を見る力が欲しい――」

 

 雲一つ、風すら吹かないこの空間に俺と幼女は向き合い、俺の憎しみを込めた言葉は幼女の両目を下へと下げさせた。軽い吐息に暫く目を伏せ、咳払いをすると同時に幼女の口が開く。

 

「まぁ……誰しも覆せる力が欲しいと言われれば欲するのは当たり前か」

「んで? どうせ条件とかあるんだろ? というか。なんで俺の名前知ってるんだ? ここはどこだ?」

 

 決まってこういうのはリスクがあるだろう。そう思った俺は急かすように一歩前に踏み込み、質問を並べると、幼女は鼻で笑った後、胸元の衿を右手で捲り、笑みを浮かべる。

 

「場所や名前など、どうでもよいではないか。それよりこの際、どうじゃ? わちをまず抱いてみぬか?」

 

 そそられない幼女に迫られ、暫くの静寂が訪れる――。

 

「……そ、それが条件なら……仕方ない……のか?」

 

 目を泳がせた俺は、それが力の為ならと気持ちが進まないのを露骨に口に出すと、幼女は顔を赤くして一歩下がられた。

 

「んにゃ!? 冗談じゃ。この阿呆! 汚らわしい! それともあれか!? おぬしロリ専というやつか!? このド変態!」

「お、お、お前が言ってきたんだろ! この状況下でよく冗談言えるな! それに俺はロリ専じゃない!」

 

 冗談と言われ、一気に顔が熱くなり、俺は前のめりでそう言うと、幼女は口をへの字にしては、海の上で地団駄を踏んだ。

 

「なにさ! 少しでもおぬしの眉根の力を解そうとした気遣いなのに!」

「解すというよりも狂わせられた感じなんだが……」

 

 子供に弄ばれた自分が恥ずかしく、額に右手を当てて目を伏せると幼女は、さっきまでの高い声ではなく、低い声が次に聞こえ出す。

 

「まぁ……よいわ。おぬし……本当にゲームの世界で人を殺せると思うか?」

 

 伏せていた目を幼女に向けると、明るい瞳をしていた幼女の目は鋭く、冷たさを感じさせる。人が殺せるゲームというのはあり得ない。だが、ライムは間違いなく死んだ。これは誰も覆せない事実だ。額に当てた手を下ろし、考えてみるが、専門的な事に一切知恵の無い俺は溜息しか出なかった。

 

「……分からない。別に開発者でもないし、仕組みまでも知らない。質問するって事はお前は知ってるのか?」

「当然じゃ。……これでも名高き神の一人、スサノオノミコトと呼ばれ、ミーコちゃんと可愛がられるマスコットキャラなのじゃーー!」

 

 再び、さっきまで調子で、胸に右掌を当てながら威張る幼女。その口から神という言葉に。この空間に。逸脱した力を持っているのは確かだろう。だからだろうか、そんな力と言葉を目前に、俺の中で更に焦燥する。

 

「正直……マスコットだろうが、神だろうが、悪魔だろうが、あいつをぶっ殺せればなんでもいいんだ。条件ならなんでも呑む。くだらない話はもういい」

 

 ミーコという幼女を見詰め、そう言い放つと、呆れたように息を吐き、右掌を胸から撫でおろすと先ほどの低い声で口を開く。

 

「悪魔だろうが、か。……元悪魔とも呼ばれた種族を扱うおぬしが何を言っとる。……確かにここで長話するほど、おぬしの命は長くは持たないじゃろうし、わちはおぬしを助けたいから現れた」

「なら……!」

 

 ミーコに近づこうと更に足を前に進めると、眉を顰め、右手の二本指を前に立てる幼女の姿に足を止める。

 

「二つ言っておく。一つはわちと契約するという事は、おぬしの感情、記憶を喰らう。この時代の神は、感情を喰らい生きながらえ、力に変えるものでな。……勿論おぬしに異常をきたさない程度に喰らうつもりじゃが。しかし扱う力が増幅すればするほど、消費される感情、記憶も多い事を忘れるな。……その対価は記憶までも消す」

 

 イメージも付かない。頭の中で靄が掛かるような言葉に俺は息を飲み、ただ頷いた。

 

「二つ目。起きたらすぐに武器をとれ。いいか? 覚えとくのじゃ。神には各々の能力があり、わちの場合、怒りは雷と操り、悲しみは水と操り、楽しみは己の力を更に上げる。感情が強ければ強いほどそれぞれの力は強まるが、先ほども言った通り力が増せば、その分リスクがある」

「……分かった」

 

 リスクなんて最初から承知している。今の俺には消えて悲しむほどの思い出はない。今はただ……あの男を殺す。それだけだ。

 

「ハオよ。契約したからにはおぬしの行動はわちが一番に尊重し、おぬしを命に代えても守ろう……」

 

 もう一度頷き、俺は目を閉じるとミーコの指を鳴らす音と共に血生臭さが、鼻を突き抜ける――。

 

 目を開くと血だまりの地面が広がり、目の前には大男が驚いた表情で後退るのが目に映る。その姿に眦を吊り上げ、歯を食いしばる俺は地面に転がった刀の柄を右手で握りしめ、立ち上がる――。

 

「お、お前……その青い片目は……なん、だ?」

「よお。会いたかったぜ」

「くそが……なに調子こいてんだよ!!!!」

 

 今まで殺してきた相手の中で、俺のように再び行動する奴がいなかったのだろう。大男は眉を顰め、少し困惑していたが、俺の言葉に苛立ったのか、鉈を振り上げ向かって走り出す。

 

 刀からは電流が流れ出すと同時に大男に向かって踏み込む体が、異様に軽く感じる――。大男の動きが止まったように感じ、音も無く、容易に後ろに回り込んだ俺は笑みを浮かべ、大男の両足、アキレス腱を切り裂く。

 

「いぎゃぁぁあああああ!!!!」

 

 足りない……。足りない。もっと怖がれよ、もっと後悔しろよ――。もっと鼻水によだれを垂らしながら、漏らして許しを請う姿を見せてくれよ。

 

「お前だけは許さない。死ぬほど後悔させてやる――。そう言えば、お前言ったよな? 俺が空っぽな人間だって……ありがとよ。俺にも目標が出来たよ。今からお前を切り刻むって目標がよ!」

 

 怒りを越えて遂に笑い声まで上げると、歩けなくなった大男は鉈を手放し、地面を這いながら俺の顔を見ようと振り向く。その表情は殺されかけた時の、俺と同じく恐怖に満ち、なんとも癖になりそうな心地の良い感情に包まれる。

 

「や……やめてくれ……」

「ふざけるな。お前がそんな事を言える立場だとでも思って――。 そろそろ……さっきのコンバートスキルが発動される頃合いか。その身で知れよ。今まで殺してきた人達の痛みを……苦しみを! 生まれた事すらも後悔する程に!!」

 

 怒鳴り声と共に大男の左腕が粉々に吹き飛び、顔に飛沫を浴びる――。それと同時に俺の左肩から大量の血が溢れ、腕や手の形を作り出し、次第に切り落とされる前の腕へと元通りになった。

 

「ぎゃぁぁああ!!!」

「さっき俺が発動したコンバートスキルは傷を負った時、その傷を治すべく、対象の肉体を奪う。ドレインだ。初めて使うがここまでの威力とは……。どうやら腹部の切り傷までは完治しなかったみたいだが、腕一本戻れば充分だな」

 

 泣き喚く大男は左肩の傷口を右手で押さえながら、もはや這いずり回る事も出来ず、涙と鼻水を垂れ流す。その醜い姿に鳥肌を立たせる俺は下唇を噛みながら、殺気を込めた鋭い眦を一瞬たりとも畏怖する大男から離す事は無かった。

 

「足りない……。もっと喚けよ。助けてくださいってさ。生まれてきてごめんなさいってよ!!」

「ひ、ひい……化け物」

 

 大男の顔近くまで歩き、哀れな姿に俺は蔑んだ眼差しで見下ろす。

 

「化け物はお前だろうが……もういい。死ねよ……」

 

 刀を天に振り上げ、刀身に流れる電流は更に激しい音を立てた瞬間――。後ろから足音が聞こえ、耳をピクつかせた俺はゆっくりと振り返り、眉を顰める。

 

 前髪が揃った白髪に、やる気が一切感じられない青く冷たい目つきは、俺を無表情のまま見詰め、淵が緑の白いポンチョの下からは槍なのか、槍にしては刃先が異常な大きさの武器を右手に握る男が立っていた。

 

「今のお前を見ていると、どっちが化け物か俺には分からないな。……そこまでにしとけ。これ以上やればお前は人殺しとして処罰されるぞ」

「……先に手を出したのはこいつだ。外野は黙ってろ」

「おいおい。外野扱いかよ。だけど、お前はまだまだこの世界の事を知らねー。外野が黙ってられない程、お前は無知で、馬鹿だ」

「お前……誰だよ……もしかしてこのクソ野郎の仲間か?」

 

 半開きの目を見開いた白髪の男は目を瞬かせ、暫く驚いた表情をして、いきなり声を出して笑いだし俺は少し困惑しながら眉をピクつかせる。

 

「おいおい。やめてくれよ。冗談でもそんな奴らと一緒にしないでくれ」

「なら消えろよ。邪魔するな」

 

 笑いながらそう言う男に俺は冷たい言葉を突き刺すと、ぴたりと笑うのをやめ、男は眉を下げ深い溜息を吐いた。

 

「おいおい、ここはヴェガスだぜ? どこに消えろって言うんだ」

「ここがヴェガス? 何言って――」

 

 俺が口を開いた瞬間——。白髪の男から突風が巻き起こり姿を消したと同時に、どすりと鈍い痛みが腹部に走る。痛みで徐々に薄れゆく意識の中、白髪の男の槍先が腹部から背中を貫かれている事に気付く――。

 

「やっと隙が出来た。悪いな。この方が止めるの……早いんでね」

 

 その言葉を聞き俺は白髪の男の顔を至近距離から見て目を疑う。

 

「なん、で……」

 

????

 

次回 狐耳の少女


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