オーガナイズゲーム

~残酷な世界で死ぬ嫌なのでロリ神と契約して強くなります~
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一章二節 一番の罪

傍観者

公開日時: 2020年9月9日(水) 21:07
更新日時: 2020年9月26日(土) 18:41
文字数:4,158



「可能?」

「可能……。つまり不可能を可能にする力の事じゃ。理、縛り、規則……そんなものから外れる事が出来る逸脱した力」

 

 ミーコはそう言って俯き、クトスに目を向けるが同様に俯き暗い表情を見せる。

 

 不可能を可能にする能力。そんなのあっていいのか? 限度があるにしても神器がない俺は、本来神器がないと発動しない力を発動できた――。そんな力を封印って。

 

「あ、あのさ。なんで封印したんだ? その力があれば――」

「ハオ、今の力の話は誰にも話すな。そしてその扉は開くな。制御するなんてレベルの話じゃないんだ。それにスサノオの能力は本来感情での作用だ。スサノオ自体の能力ではない」

 

「開くなって……意識してなかったし。じゃ、じゃぁ誰の能力なん――」

「この話は終わりだ。それより……神器が無いと力を発動できない。ただコンバートスキルだけを使う羽目になる。とは言え、まぁ神器があっても肝はコンバートスキルなんだが」

 

 俺の質問はことごとく途中で遮られ、この話は無理やりにクトスの言葉で収束した。渋々刀を鞘に戻し、いずれ知れればいい。そう思いその気持ちに取り敢えずは蓋をする事にした。

 

「……それで? クトス、神器っていうのはどこにあるんだ?」

「本来ならば神が所有しているはずだが……?」

 

 クトスは両目を細めミーコに視線を向け、俺も追うようにミーコに視線を変えるが相変わらず苦笑しながら頭を掻き出した。

 

「恐らく……ヴァイスが所持しておる」

「おいおい。まったく……。しょうがねぇなぁ。丁度ヴァイスに呼ばれていたし、連れていくか。ティアラ、お前も今回ヴァイスに呼ばれてる。着いて来てくれ」

「え? あたしが? わ、分かりました」

 

 目を大きくし、次に困惑する表情を見せるティアラに、見向きもしないクトスはカウンター席に戻り、グラスに口付ける。

 

「ハオ……更に一つ言っておく。あの地下教会での怒り狂った戦いはお前の記憶全てを消しかねる事を忘れるな。今回はあの赤毛の子が死ぬ過程の時間が長く、そこで蓄積された感情が大きかった分大体はカバー出来たようだが、毎回そう上手くはいかない」

 

 そのクトスの言葉に正直、約束は出来ない。……それは限度を知らないからだ。どこまで狂えば、消えるのか。

 

 俺はクトスの背中を見て、返事は出来ず、目を伏せた。

 

「……出来る限りはそうするよ。なぁ、クトス。ヴァイスっていう統括者になんで呼ばれたんだ? またオーバーキーラ―か?」

「俺達の敵はオーバーキーラーだけじゃない」

 

 グラスに入った酒を再び飲み干すとクトスは、徐に天井を見上げた。

 

「さぁて。ハオには、詳しい説明もあるし、ひとまずヴァイスの元に向かうか」

「ひとまずって、どうやって行くんだ?」

 

 場所はリンクシステムがあるとしても、明確にしていなければ、転送されない。ヴァイスという統括者が、まず何処にいるのかも知らない俺はカウンター席まで歩き、座るクトスの横に並ぶと、口端を吊り上げたクトスは見上げたまま、呟く。

 

「おいおい。……見てんだろ? 状況を把握したなら、さっさとそっちに向かい入れてくれないかな?」

「どこに話を――」

 

 まるで雲の上にでもいる神様にでも対話しているのかってくらいに、ただ上を見詰めるクトスに俺は苦笑しながら口を開いた瞬間、閃光が視界を包み、咄嗟に目を瞑る――。

 

「ふむ。まさか……ハオが本当にこの世界にくるとは」

 

 次は男の子の声か。瞼の裏から閃光が落ち着き、目を開いた光景に思わず「これは」と声を漏らした。幾何学模様が部屋全体を埋め、模様には一定の間隔で光の筋が通る。部屋の大きさと言えば、学校で例えれば体育館くらいの大きさだろうか。

 

 ティアラ、クトス、俺、ミーコと横に立ち並び、三十メートルくらい離れた場所には、色鮮やかな無数の宝石が埋め込まれた赤い王冠を被る白髪の少年が佇んでいた。野球の球ほどの大きさの真珠に似た宝石を先端に付けた短い金色の杖を左手に持ち、その姿、というより服だ。身長は明らかに差があるものの、白いシャツと短パン。一瞬、ライムと錯覚させる。

 

「統括者ってまさか、こ、子供?」

「次、この私にそのような口の利き方をしたら……殺すぞ」

 

 こちらにゆっくりと歩を進める少年の銅色の目は蔑むように俺を睨み、低い声で静かにそう言い放った。

 

「冗談に聞こえないんだが……」

「私は冗談など言わん……。殺すと言ったら殺す」

 

 苦笑いで誤魔化してみたが、俺の前で立ち止まる少年は顔を上げて、更に殺気を込めた一言を放たれ、どんよりとした空気が辺りを包む。

 

「まぁまぁ、そう言えばスサノオが神器をお前に預けているって言ってたけど」

 

割って入るように、クトスは少年の肩を何度か軽く叩き、彼は銅色の冷たい視線を俺の隣に立つミーコに向ける。見ているだけで苛まれているのか、眉を下げたミーコはすぐに俯いてしまった。

 

「その話も見て聞いていた。まさか……またスサノオ。お前とまた会うとはな。……いいだろう、こちらの話が終わり次第、神器は渡そう」

「それで? ヴァイス。呼び出した理由は……ティアラを連れてこさせたのにも意味があるんだよな?」

「あぁ、そうだ」

 

 やっぱり、この子がヴァイスなのか……。統括者ってこんな若くていいのか?

 

 ミーコから視線をティアラに変えたヴァイスはじっと見詰め、彼女が困惑した姿を見せると同時に口を開いた。

 

「イワスヒメが復活したようだ」

「え……」

 

 復活という事は、イワスヒメは名前だろうか。ティアラはその言葉に消えそうな声を出し、血の気を引かせる。その様子を一瞥し、すぐにヴァイスの続ける声に視線を元に戻す。

 

「クトスと行動しているのであれば、最初に伝えるべきだと思って呼んだ訳だ。彼女は一番の被害者だしな」

「おいおい。一番って……ヴァイスが言うかねー。……イワスヒメか」

 

 おとがいに親指をあて、考え込むクトスにヴァイスは両目を閉じ、背を向けると俺達から小さな歩幅で大部屋の奥へと進む。

  

「な、なぁイワスヒメって誰だ? 復活って……」

「神だよ」

 

 ヴァイスの背中を目で追いながらも質問すると、クトスが即答する。重い空気の中、イワスヒメが神という存在だと知った俺は安堵し、笑みを溢しながら更に口を開く。

 

「なんだ。神なら、協力を仰げば……」

 

 続けて俺はそう言いかけ、数分前のクトスの言葉が頭の中を過り、最悪の予想に行きつく。俺の内心を察したのか、クトスと目が合うと、ただ頷いた。

 

「ま、さか、さっきの」

「そう、俺達の敵はオーバーキーラーと敵対する神だ」

「まじかよ……」

 

 その予想は的中し、思わず俺は呆れ笑ってしまう。

 

 ヴァイスは俺達から距離を取ると杖の先で地面を小突き、呼応するように小突いた地面からは、腫れ上がるかのように金色の球体が生み出された。球体の中身はラウンジチェアのようになっており、ヴァイスはそこに飛び座る。

 

「なんで敵対する神が……というか。ここはもうゲームの世界とかいえる場所じゃないだろ」

「うんうん。お前は力の使い過ぎで俺と話した記憶が吹っ飛んでるみたいだな。もう一度言う。ここはゲームの世界じゃなく、ヴェガスにある一部の地域だ」

 

 靄が掛かっていたクトスとの始めて会話をうっすらと思い出すが、今の話は到底信じたくなかった。もはや嘘だって話になればいいと、一縷の望みにかけたい程に。

 

「いや……。い、意味が分からない。それって俺達が生活している世界にあるって事だぞ? そもそも、オーガナイズはゲームとして売り出されてるじゃないか」

「そこからは私が説明しよう」

 

 ラウンジチェアから足を組み伸ばしたヴァイスは杖をこちらに向けて、続けた。

 

「正面上は確かに、ゲームとして謳われている。しかし、それは政府……いやETBEという機関があくまでゲームとして売り出しただけであり、それには裏がある」

「裏……?」

「あぁ、実際は神を創り、人間に宿す事で逸脱した力を手に入れ、現実に保管されている生身の体を捨て、尽きる事無い命を手にし、未来永劫にヴェガスで生きる事。そして敵対する国を制する為の軍事力に繋げる事だ」

 

 現実の肉体。確か、世界人口の八割はヴェガスで生き、残りの二割は高い賃金を貰う代わりに、ヴェガスで生きる俺達の体の健康管理、カプセルの修繕、性行為の対応、人工授精を行い、生まれた子供はすぐに個々のカプセルに収容する。以後ヴェガスで生活する家族の元で暮らす。そんな話は学校で聞いたことがある。しかし、実際に肉体を捨てるなんて事……可能なのか? それに――。

 

「じゃ、じゃぁ、そのETBEって機関は人が殺されている事も知ってるのか?」

「勿論だ」

「なんで。そんな事……」

 

 クトスもティアラも、それにミーコも……。この事実を知っていたのか? それでも、なんでこの世界に居続けるんだ。一番の疑問はティアラだ。恐らく契約者でもない彼女は、なぜここに居続けるのか――。今の話だと、差し詰めイワスヒメとかいう神が、関係しているんだろうけれど。

 

「そんな事……か。神を創るにあたって必要な物だからに決まっている。……ヴェガスで生きる大量の人間の感情というデータ。怒り、喜び、悲しみ……。様々なデータを基にする事で生まれる神は始めて感情を持つ事ができる」

「だからって人殺しを! そんなの惨いだろ。自分達が未来永劫の命を手に入れる為なら、人の命なんてどうでもいいってのか!?」

 

 静まり返った幾何学模様の大部屋では、俺の荒くなった息が、口から耳へと運ばれた。ヴァイスは眉を顰める俺に、目を伏せながらため息交じりで話を続ける。

 

「ETBEからすれば、そう思ってもらっても構わないって答えだろうな……それに殺しは恐怖、つまり神にも恐怖という感情を与える事で自滅を防ぐのさ。そして他のゲームデータをコンバートするコンセプトは、場合によって過去の産物に対する過度な自信。それは神に神という器を認識させる為に繋がる」

「……つまり、このオーガナイズゲーム自体がすべて神を創る為って言いたいのかよ」

「そうなるな。いわばここは、実験室みたいな場所だ。それを知らずにプレイする人々はネズミっていう現状だろう」

 

 俺に向けた杖を下ろし、伏せた目を閉じるヴァイスに、更に聞きたい事が山ほどある中で、一番に確認したい事に息を飲み、腰に着けた刀の柄を右手で触れる。

 

「ヴァイス……お前はどっち側の人間なんだ」

 

ヴァイス

次回 条件


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