「あなたたちね、何やっているのよ本当に!」
酒場から離れた場所にある1つ大きい喫茶店で、さっきのトラブルをソフィーといっしょにアリシアに言ったら案の定、叱られ始めた。
なぜ俺とソフィーがこの喫茶店に流れ着いたかといと、理由は単純だ。カオルが出て行った後あの場に居づらくなり、気晴らしに昼食を取ろうろ思った俺はソフィーと酒場から出て友人のヒビキに連絡を取り、誘ったらヒビキが「アリシアといっしょにいるけど良いか?」と言われ、「別に構わないよ」と言って、今いる喫茶店で昼食を取ろうと決めて4人でここにいる訳だ。
じゃあ何で今アリシアに叱られてるかって?
それは、昨日俺とカオルがいっしょにいたのを偶然、遠くで目撃したのだという、そして今日ヒビキと会う約束があるからハタラケヤに来ている道中にまた偶然カオルとすれ違ったが、今度はカオルが1人で落ち込みながら歩いてたので、何があったの?と訊いてきたので包み隠さず酒場での出来事を全て明かしたら、叱られ始めた。
アリシアは深いため息を吐いて、口を動かした。
「まだ来て日が浅いのに叱ったり怒鳴ったりするのはダメじゃない!言ってることが正しくても人前で怒鳴ったりするのは、その人の心を傷つける一番ダメな行為よ!そんな事したら信頼関係が崩れちゃうから!私が良くミスリットと2人きりで説教してたのはそういう意味よ!」
説教中のアリシアにソフィーが、恐る恐る訳を話す。
「アリー、私も悪かったと思うよ、でもあなたはすれ違っただけだけど、あの子は子どもぽいていうか、なんていうか、とにかく見ていて不安だったのよ、だからーーーー」
「自覚しているんだったら言い訳は聞きたくない!反省しても過ぎた事はもう変えることなんて出来ないのよ、だから人と接する時は、慎重に相手の立場になる気持ちを持つのが必要なのよ、特に初めてである人であればあるほど」
出ない、自分の口からは反論が出ない程、アリシアの言ってる事は正しすぎる。
でもアリシアの説教からは何故か不思議と不快感や反抗心という物が現れない。彼女の説教はただ怒鳴り散らすような事は一切しない、まるで世話を焼く我が子に心から教え説こうとする母親のようだ。
だから3日前、突然出て行くよう言われても抵抗なしに承諾したのは、彼女から出てくる献身的な説得力の影響かもしれない。
先程アリシアが言っていた通り、ミスリットをパーティーに入れた時は彼女はかなり荒れていた。そんな彼女をアリシアは2人きりにして説教してた。
最初は聞き入れて貰わなかったが、続けていく内に次第と聞いてくれるようになり、口は所々悪いが今ではしっかりと他人の立場に想って立つようになった。
俺には持ち合わせていない、アリシア自身の特性のような物だ。パーティーリーダーであり、勇者
アリシアの説教を止めようと、隣に座って聞いていたヒビキが喋り出す。
「まあまあ、もうええんとちゃう?2人共反省してるし、見てみいやこれっ!顔がおじいさんみたいになっとるやろ!それにトラブルの1つや2つ起きるのはようあるけんな!」
「ようある?違うのよ、私が問題にしてる所はね、キリヤがパーティーから出て行ってこのトラブルが起きるまで何日空いたと思ってる?2日よ、2日!それもチンピラとの絡みじゃなくて人間関係
についてよ!どう思う?」
ヒビキは視線を逸らし、少し考える。
「めっちゃヤバイなそれ!!」
「でしょ?離れても大丈夫だろうと思ったらもうこれよ!」
俺とソフィーは、2人が会話を進む度に肩身が狭くなり、注文したグリルチーズサンドや小倉トーストを、ちびちびと口に運んだ。
俺たちが食べている最中に、さっきまでヒビキと話してたアリシアが俺に話を振った。
「キリヤ、あの子、カオルはその後どうするか知ってる?」
「店長の店に帰る、て言ってたから今頃はもう店長の所なんじゃねのか?」
アリシアはこれを聞いて眉を潜めた。
「それ本当?あの子、私とすれ違った時は店長の店とは真反対の場所だったけど」
「本当かよ、それ?」
「この流れで嘘なんて言うわけないじゃない」
カオルがまだ店長の店に帰ってないとしたら、相当深く落ち込んでるんだろうな、2日しか付き合いがないが、今まで出会った人たちの心情と行動を照らし合わせると、カオルは今どこか心を癒そうとしてるに違いない。
「少し心配だな、ちょっとアイツを慰めに会いに行くよ」
俺が席を離れようと立とうとした瞬間。
「待って!会う前にまずはボイスチャットかメールからよ」
「どういう事だ?」
「心が不安定になっている人はね顔見知りの相手と対面したら、緊張して上手く話し合うのが難しいの、だから上手く進むためには最初はボイスチャットかメールの方が良いのよ」
「分かった、お前の言う通りにするよ」
さすがアリシア、人を捌くのには手練れてるだけ、このアドバイスはかなり頼れそうだ!
席を外した俺はカオルのステータスに、ボイスチャットを入れた。
俺は早速ステータスを開いてボイスチャットのチャンネルでカオルに連絡を掛け始めた。
ボイスチャットの音楽が淡々と流れてると、音楽が止んだ。
『あの、キリヤさん、どうしたんですか?』
繋がった!カオルは俺のボイスチャットを取ってくれた!
喜んでいるのをなるべく抑えて、平常心を保つように深呼吸をして、話し掛ける。
「いや、お前が今どうしてるんだろうな、て、ほらさっき酒場であんな事があっただろ?それでお前が大丈夫か心配でよ、だから」
『ありがとうございます、私はもう大丈夫ですよ、ああいうのは慣れてますから』
カオルはそう言ってるが、声にあまり力が入ってない、それに微かにため息がこぼれているのが画面越しから分かる。
ここはまず自己嫌悪を取り払って、それから自己肯定をさせないと。
「あのさあカオル、あの時のお前は別に悪くはないよ、ソフィーはお前のためにと思って言ってたから、あいつ、お前を人前で怒鳴ってたのを猛省してるから、だからお前に非は無いよ」
『そんな、だってーーーー』
「お前は、俺たちが説得しても冒険者を選んだのは、俺とソフィーを嫌がらせしようとか、信用してないとかじゃなくて、自分と同じ日本人の言ってる事に傾いちゃったんだよな?」
カオルは沈黙する。
『そうです、でも2人がせっかく優しく教えてくれたのに』
「気にすんなよそれぐらいの小さな事、カオル、お前はまだこの世界に来たばかりで何をしていいか分からないんだ、だから最初は冒険者になってもおかしくはないんだよ、失敗は誰にでもあるよ」
『でも』
「あのな、昨日、農園に行った時はさ、俺はお前に合わさなくて農園まで歩かせて疲れさせたんだ、その時に自転車を借りたりして移動すれば良かったんだよ」
『エッ!!この世界に自転車なんてあるんですか!?』
「ああ、あるよ、勿論この世界にも自転車はあるからな」
亜人種やモンスターには驚かないのに自転車は驚くのかよ。
「だから、俺も昨日は失敗してんだよ、お前だけじゃないからそう落ち込むなよ」
間を空けてもう一度喋り出す。
「それに昨日はクエストの選び方なんて分からないからギガフロッグの駆除のクエストを選んだんだろ?」
『はい、あの時はそうです、とにかく分からなかったので自分が楽しめそうなやつを選んでーーーー』
「それでいいじゃなか」
『今なんて?』
カオルの疑問に対して俺はこう答えた。
「最初は楽しい事を選んで、それに進んだらいいんだよ、冒険者を選んだのだってこれが良いから選んだんだよな?」
『はい、そうです』
「俺とソフィーは止めようとしたけど、もしかしたら、カオルは冒険者に向いてるかもしれないんだ」
『根拠は?』
「そんなのは無いよ、だからこのまま冒険者のレベルを上げればいいんじゃないか?」
『い、いいんですか?』
「だから良い、て言ってるじゃないか」
『がんばってみます』と返事をするカオルの声の調子が明るく戻ってきた。
「それじゃあ、明日の鑑定にまた会おうな、店長に心配かけないでちゃんと帰れよ」
『はーーい』と言い残してカオルがチャットを切るのを確認した。
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