よく考えたら今回のクエスト内容、100尾以上は出てくるのに駆除数のクリア条件が20尾と低かったり、報奨金も普通のギガフロッグの3倍はしたり、さっき聞いた茸人族が対抗や駆除を一切せずに身を潜めたり、と引っかかる箇所は何個もあったのは対象であるギガフロッグが馬鹿デカいからなのか!
依頼主は現れたギガフロッグをじっくり眺めると、顎に生やした無性ヒゲをポリポリとかいて。
「あれ、こいつは他のやつより少し小さいな」
「あれで小さいの!?あれでも結構でかいじゃん!!」
「え?ギガフロッグて普通はあれよりも大きいいんじゃないの?」
「普通はあれよりもっと小さいの!!」
依頼主は「ウッソーーン」と口を開けて半信半疑な顔で返してきた。 こっちがウッソーーンだよ!!
「あ!ヤギが喰われてる!!」
自分が想った以上にギガフロッグが大きいことや、俺と依頼主のやり取りに棒立ちしていたカオルが報告した。
ギガフロッグは最初に現れた1尾を筆頭に、オイコ池がある西側の森林から続々と現れて囮用のヤギを囲い一斉に喰らいつく。
喰らいつかれたヤギは耳を塞ぎたくなるような断末魔を上げ、骨が折れる音がここまでもハッキリ聴こえてくる。
俺とカオルはこの光景と音に慄いたが依頼主は慣れているのか、これを見ても動じることはなく。
「それじゃあ後はよろしくねお二人さん、今日の夕方ぐらいにはパイを差し上げるから」
マイペースで俺たちに手を振りながら家へと向かった。
「キリヤさん!!私は今から何をすればいいんですか!?」
「このナイフを持ってここで待機しろ!これはお前が活躍するどうこう以前の問題だ!!本当にここいてくれ!!」
カオルはキツツキのように何回も首を大きく振る、俺は大型のナイフを渡すとギガフロッグの群れに駆け寄り挑んだ。
「杖は!?魔術師なのに杖は持ってないんですか!?」
「金がねえから持ってねえよ、そんな高級品!!」
魔術師は一般的に大きな専用の杖を持ち、それを掲げて詠唱し魔法を発動するようにも思われるが、それをするのは金に余裕のある輩だけだ!!
俺みたいな杖を買えない貧乏魔術師たちは型落ちして格安になった魔道具や自作した魔道具で駆使するんだ!
だいたい杖なんて物は他の魔道具に比べて桁違いに高いのに、その上メンテナンス費用と税の支払いも馬鹿にならない程高い、だから俺はなるべく金を低く抑えるために魔道具を自作してるんだ。
この自作した2つの魔道具、“エンシェントグローブ”と“スパークブレスレット”を今ここで使う時だ!
事前に装着したグローブとブレスレットに詠唱を唱えなくても込める量の魔力を込める、魔力はグローブから左腕に装着してるブレスレットへと流れ、そこから光の剣、“スパークブレード”が出現し、ブレードを鞭のように伸縮させて目の前にいるギガフロッグたちを叩き斬り始めた。
ギガフロッグの後ろ足を薙ぎ払い、効率よくギガフロックの動きを封じ込める。足を薙ぎ払われたギガフロッグは腹を地面に着き、その場で這いよるしか出来なくなった。
身を守る為に俺を攻撃するギガフロッグも現れたが戦い慣れしてる自分としてはこの攻撃は避けやすい物で駆除活動に対しては何の支障もない。
このまま上手くいけば今日中に20尾は駆除出来るな。
「キリヤさん!キリヤさんは飛び道具を使えるんですか!?」
俺がギガフロッグの群れに対処してる最中に、遠くから見守っていたカオルが俺に質問してきた。
「道具ーーーー!飛び魔法だったら普通に使えるけどそれがどうしたんだ!?」
「それじゃ私の指示に従って動いてください!!」
「どうしてなんだ!?」
「とにかく言うとおりにしてください!!」
カオルの奴、何か策でもあるのか?
策があるのならカオルを信じて指示に従おう、彼女もただ突っ立ってるだけなのはいやだろうしな。
「分かった、お前を信じているぞカオル!」
これを聞いたカオルは真剣な表情で指示を開始した。
「まずこうをこうやってそしてこうしてこうしながらこうやってください!!」
言葉は漠然としずきて説明にすらなってはいなかったが、仕草をしていたので意味は伝わった。てかめっちゃキレが凄いなこいつの仕草!
とにかく俺はカオルの仕草を真似する、が何も起きない。
「あのー最後両手をクロスする時に魔法をビーム状にして射ってください!」
ビーム状?なぜそれをする必要のかは解らないが、とにかく言う通りにしよう。そしてもう一度仕草を真似て、最後に行う両手のクロスで魔力をグローブに集中し、ビーム状に発射する!
発射したと同時に、カオルはドスの入った声でこう叫んだ。
「ルナディウム光線!!」
「俺で遊ぶなああああ!!」
ルナディウム光線て言葉でやっと解ったぞ!昔、別の日本人のユウキが教えてくれた、昔日本で流行っていたヒーロー作品“超月光戦士ルナ”の主人公であるルナが使う必殺技と同じてかそのまんまじゃないか!
カオルは策が有るのではなく、ただ単に俺が魔術師で魔法を扱えるからという理由で、ルナディウム光線を再現させてそれを見たかっただけだ!
それに出した光線も詠唱を込めてないのか、威力は微妙過ぎるし消費する魔力量が多すぎる、ダメな技じゃんかこれ!!
こいつを信じた俺が大馬鹿者だった。
期待とは裏腹の行為だと判り嘆く俺に、カオルは満面の笑みで返した。
だが1頭のギガフロッグがカオルに近づくと、カオルの顔は笑顔から蒼白へと変わり。
「ヤバいヤバい!気持ち悪い!消えてよこの悪魔!!」
半狂乱気味で口を滑らせ、近づいたギガフロッグをナイフを上下に何回も降り、運よく倒すことができた。
倒す事ができたカオルは気が抜けた顔になり、息づかいは荒いが深呼吸をして落ち着きをとる、だが次の瞬間。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
落ち着いたと思ったら今度は雄叫びながら何かに驚いていた。もうヤベーよお前。
「レベルがめちゃくちゃ上がってくるううううッ!!」
驚いていたのはどうやら自分のレベルが上がったかららしい。カオルは前屈みな姿勢で何かを注視している、おそらく自分のステータスを閲覧してチェックしてるのだろう。
だがカオルのステータスを見えないこちらからしたら、ここまでの流れはもはや奇行にしか見えない。
正直に思うと少し怖いです。
農園に現れたギガフロッグの群れの一部を駆除した俺たちは、駆除したギガフロッグを並べて数を数えていた。
西側の森から現れた時は見た感じ、100匹辺りはいたんだが倒していくうちに半数は森へとすぐ引き返した、そのため倒した数はカオルの1匹分も含めて42匹であった。
その後依頼主に聞いてみたら、ここのギガフロッグは仲間が数匹倒されら相手に挑んで様子を伺い、危険だと感じたらら即退散するらしい。
だから1週間をかけて30匹以上を駆除するのだが、初日でそれをクリアするからかなり驚かれた。
「いやあアンタ凄いよ、1度にこんなに倒してくれるのはありがたいよ」
「ありがとうございます、あと数日貰ったらもっと駆除出来ますよ」
「いやもう大丈夫だよ、ここのギガフロッグは頭が良い方だからここが危険だと思ったら半年は寄ってこないから、このクエストは今日で終わりなんだよ、じゃあこのギガフロッグたちを解体小屋にいっしょに運んでくれるかな?」
「分かりました、カオル、これらを運ぶぞ」
「はーーい、わかりました!」
依頼主からクエストの完了を教えて貰い、ついでにとギガフロッグを運ぶのを手伝って欲しいと頼まれ、俺たちは快く承諾してギガフロッグの死体を荷車に2匹入れて、それを解体小屋に運ぶのを繰り返した。
この繰り返しを3回めだろうか、口が暇で寂しがっていたカオルが話をしてきた。
「良かったですね、クエスト成功して」
「ああそうだな、カオルのところにギガフロッグが寄った時はどうしようかと思ったけど、お前が運良く倒したし、予定よりも早く終わったしな」
「そうですね、あとお金もたんまり貰えますし、報酬金の30万に報奨金は計算したらたぶん15万近くだから45万円ゲットですよ!」
にんまりと笑顔を浮かべるカオル。だが俺は水を差すように答える。
「そうはならねえぞ、税金なり手数料なりで引き落とされるからな」
「そうだった」カオルはにんまりした笑顔は普通の表情へと変わり、「どれぐらい引き落とされるんですか?」と俺に質問した。
「そうだな、最初はクエスト税に役場からの仲介料に、パーティー税は入らないけど領主からの徴収も入れると、えーーっと」
徴収される税を口に出し、頭の中で計算しながら右手指を動かす。
「20万ポルド有るか無いかぐらいだな」
「ええええっ!!」俺の答えに驚くカオルは「3分の1もとられるなんてあり得ない!」と文句を言ってきた。
「20万つっても報酬金だけでの算出だ!まだ報奨金はまだ入れてねえよ!まあ入れても25万がいいぐらいだろうな」
「3分の1どころか、半分もとられるなんて」(o´・ω・`o)
聞けば聞くほど得たお金が取られるのを知ったカオルは、ショボくれ荷車を押す力が弱まっていた。ちゃんと押してくれ!
「まあパーティー業なんてこんなもんだよ」俺は顔を後ろに振り向き、話しを進めた。
「この世界に来る日本人の殆んどはこの業界に憧れるが、あまり花舞台な職じゃねえんだ」
「結構厳しい世界なんですね」
「まあ、俺が子どもの頃は高級取りだったんだけど、堅気な職に就くことができない端くれ者や底辺、変わり者たちがやる物で印象は良くなかったが16ぐらいに人気ある業界へと変わってチヤホヤされ始めたら上の連中に目を付けられて税金を掛けられたり、今じゃこれだけで喰うのが厳しくなったんだ」
「はぁ、異世界て夢もへったくれもないな~~、もっと良い所だと思ったのに」
カオルはこの世界に抱いた夢がただの青い芝生だと気づくと、アヒル口を作りながら落ち込んだ表情で落胆する。
「そう落ち込むな、この世界が都だと思うようになったら良い所が見えてくるよ」
「・・・・・・そうですね」
落胆したカオルの表情はすぐ笑顔になり「キリヤさんキリヤさん」と俺を呼んで。
「この世界の驚くような凄くて良いところを教えてくださいよ」ニヤニヤと笑顔は子猫のような表情へと移り、尋ねてきた。
「この世界の良い所?ちょっと待ってくれよ」俺はこの質問に少々頭を悩んでしまった。この世界で当たり前に生まれ育ったから良さが判り辛いというのもあるが、一番頭を悩ませるのが日本人が驚く凄い物があるのか、という事だ。
昔はエルフやオークやゴブリン、魔法を知ったら驚く日本人はいたが、現在ではそんなの見たり知ったりしても驚くどころか「やっぱりね」とか「こういうのは居て当然じゃん」とか日本には創作の世界でしかないのに、こちらにもありますが何か?みたいな反応ばかりしかして来ないんだよ!
最近、酷かったのはゴブリンは女を犯すのが大好きな低知能の雑魚種族、て最悪な偏見の持ち主の日本人がいたことだ。そんなのが一人じゃない、かなりいたんだぞ!そんなやつが!
ゴブリンは低知能じゃなく雑魚でもない種族なのに。
てかよくよく思い出してみたらカオルの奴、獣人やエルフなどの亜人族を目にしても、視線は巡っていたが反応は何もしなかったぞ!
こうなりゃあ、こう答えるしかない!
「そんなのはな、聞いて覚えるんじゃなくて、感じて覚えるもんだよ」
よし、何も教えずに相手に求める答えをしたぞ。どうだ!
「なるほど、そりゃあそうですね」カオルは感心して納得してくれた、よっしゃ!
これで一安心したかと思ったら、「うわああ!!」と突然カオルが何かに怯えて発狂した。
「どうした!何があったんだ!?」
すがさす荷車から手を放して後ろにいるカオルの方へ寄った。
カオルは口をパクパクと動かして見てと言わんばかりに指をある方向に差す。その方向を見てみると、そこには荷車に載せられたギガフロッグの腹からとてつもない光が輝いていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!