「キリヤ、あなたはこのパーティーから抜けて欲しいの」
「へっ!?」
俺の名前はキリヤ・マーリン、22歳、職業は魔術師だ。
今俺は所属してるパーティーのリーダーであり幼馴染でもある女性勇者、アリシア・クロノスから仲間たちの前で追放宣言を言い渡された、こんな人がいっぱいいる酒場が併設してるギルド役所の中で。
「俺、追い出されるの?」
「うん」
「いやうんじゃなくて唐突過ぎんだろ!俺が何がどうしたっていうんだよ!?」
このパーティーは俺を含め6人の小規模で構成されているパーティーだ、みんなそれぞれ職業が被っていないため不要なメンバーはいないはず!
てかみんなとは昨日まで楽しく酒を飲んでた仲なのに、どうしてなんだ?俺がみんなから追い出されるようなマネ、身に覚えがねえぞ!
「キリヤ、あなたがパーティーから追い出すのは約に立たないとかじゃないのよ」
「どういうことだ?」
焦らすアリシアに俺は少し緊張して聞き出す。すると彼女はこう言い放った。
「税金よ、新しい課税のせいで1人追い出さなくなったのよ」
「う、嘘だろ!?」
そういえばこの前聞いたことがある、確かパーティーメンバーが7人以上だと1万2千ポルドだが、それを超えたら1人に月2万3千ポルドの税収をしなければいけないのを、7人から5人まで減らすって。
てことは俺はこのパーティーから追い出される理由は不要ではなく、本当にただお金がないからなのか!!
「ねえキリヤ、あなたは分かっているでしょうけど、私たちのパーティーはかなり金欠てこと」
「分ってるよ、俺たち5人ボロ小屋で生活してクエストを多くこなしても手数料なりなんなりと取られて、そこから武具を揃えるなどの仕様費も引くから毎月お金を貯めれるどころか、余裕があるのか怪しいぐらいだもんな」
そうこのパーティーはハッキリ言ってド貧乏だ!この人数で充分食っていけるぐらい稼ぐのは、高レベルで危険なクエストを連続的にこなせる腕の良い連中たちだ。
それぐらいの腕を持ってるメンバーは俺とアリシアぐらいしかいない。稼ぎ頭と言っても過言ではない程このパーティーの中じゃ重要な立ち位置なんだ。
でも他の4人はそんな危険なクエストを月一でできるかどうか怪しいぐらいの腕っぷしだ。
「でもさアリー、俺が抜けることになったら稼ぎ頭はお前しかいなくなるけど、そこは大丈夫なのか」
「大丈夫な訳ないでしょ!あんたが抜けて税は低く抑えても厳しいのは変わりないのよ、でもそうしないともっと厳しくなるのは目に見えてるのよ」
「あのう」とこのメンバーの新入りである日本人転生者である狩人、ショウヘイが手を挙げて意見を出した。
「キリヤさんが抜けたら僕たちが厳しくなるんだったら、キリヤさんはメンバーではなく付き人としてここに居たらいいんじゃ?そしたら税金は軽く済むしーーーーーー」
「ショウヘイ、それはやってはいけないことだ!」
俺はショウヘイの提案を一蹴し訳を話した。
「お前が出した案は4年前に改訂された“ギルドとパーティーの法”で禁止になったんだ、お前はここに転生してまだ3か月だから知らないだろうが、そういうやり方で奴隷当然の扱いや差が起きて大問題になって重罪として扱われるようになった、これをやってることがばれたら資格を剥奪されて職にも付けることが出来なくなって全員路頭に迷うことになるんだぞ!」
無知な自分を責められたと思い込んだショウヘイは顔を下に向いて酷く落ち込むと、隣にいた綺麗な黒い肌を持つ銀髪の賢者の少女、シャルロットがショウヘイの肩を撫でながら励ます。
「ショウ君落ち込まないで、キリヤさんは責めてるんじゃなくてただ教えただけなんだから、キリヤさんがいなくなったらその分私たちが頑張らないと、そうしたらキリヤさんもいつかここに戻って来るから」
そうだ!俺の思いを代弁してくれシャルロット!彼女は北方の田舎の農家で生まれ育ったが両親は身体の不調で働けなくなり、長男が仕事を引きついたが今の稼ぎじゃ両親の治療費を割り当てることが出来ず周りに雇ってくれる仕事がないため、出稼ぎをしにここに来た苦労者である。
覚悟を持って家を出ているためなのか、気弱なショウヘイとは正反対のしっかり者でありショウヘイとは歳が2つ上であることから彼を弟のように慕っており、ショウヘイ自身もまたシャルロットを姉のように慕っている。
「頑張るつっても私たちはクエストだけじゃなく副業をしても生活はピンキリなのよ!キリヤが離れたら私たちの暮らしは酷くなる一方!踏んだり蹴ったりじゃないこんなの!」
シャルロットの言葉に水を差すように言葉を放ったのは、前科持ちの武闘家であるエルフ、ミスリットである。
ミスリットは多くの人が賑わうこの酒場でも左手の甲にある、受刑者の証である赤い3本線の刺青と左腕にも掘ってある刺青をお構いなしに露出して、酒を飲みなが言い続けた。
「普通の所だったら私たち3人のどちらかがここを出ていくのよ!私たちはろくでなしで、足てまといなんだから!」
ミスリットは身も蓋もないことを言ったがその通りだ、ショウヘイとシャルロットの2人は危険なクエストに立ち向かえる程の技量はなく、大金を稼ぐのは困難だ。
武闘家であるミスリットはこの2人とは違い、俺とアリシアまでにはいかないが戦闘技量は良くて容量も良いことから稼ぎの良いクエストをこなせることはできる。
だが彼女は元受刑者、堅気な職を付けることが出来ないためこのような所で仕事するしかないが、最近のパーティーとギルドは大小問わず前科者、特に出所者を受け入れては貰わない傾向になっている。理由は評判を避けたくないからと、かつて彼女みたいな人たちを快く受け入れてくれる場としての仕事場が、今じゃ肩身が狭くなっているのだ。
俺とアリシア以外のメンバーはいわゆる訳ありの連中だ、俺ではなくこの3人のどちらかが出ていくことになったらこいつらが路頭に迷うのは目に見えてる。
ミスリットの発言でシャルロットは怪訝な顔になり2人の間に嫌悪な雰囲気が出ているのは明らかに分かった。喧嘩騒ぎが起きる前に早く止めないと。
「おい待てよお前ら!俺が離れることになっても縁を切るって訳じゃねえんだぞ!もし前みたいにいつものの5人でいるのを戻りたいのなら、今より強くなって、パーティー業だけで充分喰っていけるようになるよう稼いでからだ!解ったな!?」
このような暗い会話があっても周りの連中は気にもせず目の前にある酒と料理に夢中だ。まあこっちのほうが気がやりやすい。
「そんじゃあ明日、俺は小屋から出ていく、お前らは4人でもしっかりしろよ」
俺がそう言うと3人はだんまりし、申し訳ないような顔で下を向いた。アリシアと俺は目を合わすと
「それじゃあ今日はキリヤの送別会ということで、キリヤと飲み物取りに行ってくるからそこで待っててね」
アリシアはそう言うと俺に顎で指示し、俺はそれに従って彼女といっしょに酒場のカウンターホールへと向かった。
カウンターへ向かう途中アリシアが俺に話して来た。
「ごめんなさい急に、昨日2人でそのことで話してたけど、あなた酒が入ってたから覚えてるかなと思ったけど」
「すまん!完全に忘れたわ、まあ古馴染みのお前だから別にいいけどよ、他の奴だったら絶対ぶん殴ってたわ絶対!!」
「でしょうね、でもパーティーから離れても大丈夫なのはキリヤだけだもの、私の肩書なんかパーティー業以外じゃ約に立たないし他のパーティーなんて前歴で受け入れて貰えないわよ」
アリシアは2年前に幾度か人々の危機を救い勇者という称号を手に入れた実力者だ。でも勇者の称号を得ている以上、それ以上の活躍と評判が求められる。
この2年、彼女はそういう物を得ずにショウヘイたちのような相手されない人たちを受け入れた。
人としては素晴らしいが勇者としては駄目なのがアリシアの現状だ。
「それにあなたは魔術師で博士号を持ってるから雇ってくれるところはあると思って」
彼女の言うとおり、魔術師は今でも需要の幅は大きいのだ。
それに博士号も習得しているからどこぞやの研究機関や会社の研究部門、魔術の講師として就職はできる。
俺がパーティーから抜けても働き口はどこにでもあるし、この4人に比べたら安定した生活は送りやすいのは確かだ。
アリシアもそう思って俺を選んだのだろう。
「アリー、お前の判断は間違っていないと思うぞ、取り敢えず明日は役場に行って保険の申請して掲示板の求人票を見て仕事を探す」
「分かったわ、それじゃあ明日から気をつけてね」
「了解しましたよっと!」
俺はアリシアの心配言を軽く受け止めてカウンターで注文したビールジョッキを持って、アリシアには飯を運んでもらい3人が待っている席へと足を運び、今夜はみんな腹いっぱい飯を食った。
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